研究課題
FFPEプロテオミクス技術の最大の課題であった「試料調製の再現性の低さ」と「LC-MS/MS測定の再現性と網羅性の低さ」を、次の3つの新技術の融合によって解決し、FFPEプロテオミクスの概念を定性解析から「定量解析」へと塗り替えることを2019年度の目的とした。ホルマリン架橋の除去と切片からのタンパク質抽出が最大の課題であることは世界的認識であり、高温・高圧・可溶化力に優れた可溶化剤の使用が有効と考えられてきたが、従来法では達成不可能であった。我々は、超高圧と常圧を交互に与える(1)Pressure Cycling Technology(PCT)と可溶化力に優れたPhase Transfer Surfactant(PTS)、さらに95度の高温(PTSを使用したことで初めて加熱が可能になった)を組み合わせることによって、ホルマリン架橋の除去および蛋白抽出をほぼ完全に進行できることをはじめて証明した(マウス肝臓のFFPE切片と凍結切片を用いた比較実験)。上記の調製法に加えて、数千種類の蛋白質発現の一斉かつ高精度定量を可能にする(2)SWATH測定と(3)高精度定量ペプチド選択法を用いた結果、従来のShotgun測定やペプチド選択を行わない方法に比べて、統計学的に有意に、飛躍的に、真度および精度が改善した。具体的には、FFPE切片から得られるタンパク質の網羅的な定量結果が、新鮮組織のそれらと1.5倍の範囲内であり、かつ、4回の独立したサンプル調製・測定間のCV値が約7%であった。以上の結果から、FFPE組織を用いた網羅的なプロテオミクスにおいて、はじめて定量に値する手法を構築できた。さらにその精度・再現性の度合いは、きわめて高く、新鮮組織を反映する定量結果を得るに十分なものであった。現在、論文審査中である。
1: 当初の計画以上に進展している
FFPEプロテオミクス技術の最大の課題であった「試料調製の再現性の低さ」と「LC-MS/MS測定の再現性と網羅性の低さ」をこの1年間で解決し、FFPEプロテオミクスの概念を定性解析から「定量解析」へと塗り替える、という科学的に大きな進歩があったため。
病態時におけるタンパク質の発現量変化を精度よく追えることが、臨床応用における必須条件である。今後は、病態変化を精度よく定量できる方法を開発し、病態時の分子メカニズムの解明研究やバイオマーカー研究に有用であることを証明する。
すべて 2020 2019 その他
すべて 国際共同研究 (5件) 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 4件、 査読あり 5件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 1件、 招待講演 4件) 図書 (1件) 備考 (1件)
Drug Metab Dispos
巻: 48(2) ページ: 135-145
10.1124/dmd.119.089516
薬事日報
巻: 12286 ページ: -
Proteome Letters
巻: 1 ページ: -
Invest Ophthalmol Vis Sci
巻: 60(15) ページ: 5022-5034
10.1167/iovs.19-27328
Clin Pharmacol Ther.
巻: 106(3) ページ: 525-543
10.1002/cpt.1537
J Neurochem.
巻: 150(4) ページ: 385-401
10.1111/jnc.14722
ファルマシア
巻: 55 ページ: 320-324
巻: 55 ページ: 335_3
http://www.pharm.tohoku.ac.jp/~soutatsu/dds/profile/uchida.htm