研究課題/領域番号 |
19K22598
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
吉村 崇 大阪大学, 放射線科学基盤機構附属ラジオアイソトープ総合センター, 教授 (90323336)
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研究分担者 |
兼田 加珠子 (中島加珠子) 大阪大学, 放射線科学基盤機構, 特任准教授(常勤) (00533209)
永田 光知郎 大阪大学, 放射線科学基盤機構附属ラジオアイソトープ総合センター, 助教 (10806871)
豊嶋 厚史 大阪大学, 放射線科学基盤機構, 特任教授(常勤) (40414578)
渡部 直史 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (90648932)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | アクチニウム / ガドリニウム / ランタン / キレート剤 / 迅速反応性 |
研究実績の概要 |
本研究は、MRIで使用されているガドリニウム及びアルファ線核医学治療研究で用いられているアクチニウムのキレート剤であるDOTAを超える安定性と迅速反応性をもつ超安定キレート剤の開発を目的として、実施している。本研究では、迅速反応性の獲得のためにキレートの構造に部分的に剛直な部分を取り入れつつ、柔軟にフィット出来る部位も取り入れたトリアミノシクロヘキサンに3つのピコリン酸アームをもつ9配位のキレート剤を新しく合成した。その新しい配位子について各種分光法を用いて同定し、さらに酸塩基反応に関する特性を明らかにした。続いてランタンと反応させ、ランタンの錯体が生成していることを各種分光法及び単結晶エックス線結晶構造解析により明らかにした。得られた化合物の水中での安定性について調べた。その結果、この錯体は純水中では安定であることが分かった。一方、pH7のリン酸緩衝溶液中およびpH4の酢酸緩衝溶液中では、時間とともに配位子からランタンが解離していくことが判明し、配位子からのランタンの解離には、緩衝剤が大きな影響を及ぼしていることが分かった。今後の方針としては、より有効なキレート配位子を合成するために、各緩衝溶液中での反応速度を算出し、そのpH依存性および緩衝液の濃度の依存性を定量的に評価して、解離反応の機構について詳細に調べる。また、よりイオン半径が小さく、配位子とより強く結合するガドリニウムとの錯体について安定性を評価するとともに水分子がガドリニウムにアクセスできる部位の存在の有無について明らかにする。上記の知見を用いて、より安定にキレートできる配位子を新たに設計と合成を行い、金属錯体を合成する。錯体の安定性について各種分光法を用いた反応速度解析により明らかにする。最後に本研究で新しく合成したキレート剤の能力について評価し、研究をまとめる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
トリアミノシクロヘキサン骨格に3つのピコリン酸アームが結合した配位子を新たに合成し、その化合物を同定した。酸塩基滴定により酸解離定数を決定した。アクチニウムの模擬として同族のランタンを用いて錯体合成を行った。ランタンと配位子との反応は水中で即座に起こることが分かった。各種分光法によりランタンと配位子とは、1:1の錯体を形成していることが判明した。単結晶エックス線結晶構造解析を実施したところ、得られた錯体は10配位構造をとっていた。配位子は9配位できる構造であるため、ランタンやアクチニウムを用いた場合は、配位子の他に新たな分子が配位できる部位が存在することが分かった。続いて、得られた化合物の水中での安定性について調べた。純水中では錯体の吸収スペクトルの時間変化が見られなかったため、この錯体は純水中では安定であることが分かった。一方、pH7のリン酸緩衝溶液中およびpH4の酢酸緩衝溶液中では、錯体の吸収スペクトルが時間とともに変化し、最終的に配位子のみの吸収スペクトルと一致した。このことから、緩衝溶液中では、時間とともに配位子からランタンが解離していくことが判明した。酢酸緩衝溶液中でさらに詳しく反応を調べたところ、同一のpHでは、緩衝溶液中の酢酸および酢酸イオンの濃度が高いほど、解離反応が迅速に起こることが分かった。一方で、pHを変化させても吸収スペクトルの時間変化には、大きな違いが無いことが判明した。配位子からのランタンの解離には緩衝剤が大きな影響を及ぼしていることが分かったが、その反応機構について詳細に調べる必要があることが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
今回設計した配位子では、緩衝溶液中ではランタンが時間とともに解離することが分かった。そのため、この形のままでは同族のアクチニウムへは適用が難しいことが判明した。より有効なキレート配位子を合成するために、解離反応をさらに詳細に調べる必要があるため、各緩衝溶液中での反応速度を算出し、そのpH依存性および緩衝液の濃度の依存性を定量的に評価する。 ガドリニウムは、ランタンやアクチニウムに比べてイオン半径が小さく、これらの金属イオンに比べて配位子とより強く結合することが一般的に知られている。そのため、本研究で合成した配位子とガドリニウムを反応させ、得られた錯体について同定するとともに、MRI試薬として重要な水分子がガドリニウムにアクセスできる部位の存在の有無について明らかにする。加えて、得られた錯体の安定性について、分光学的手法を用いて調べる。 上記の知見を用いて、より安定にキレートできるための配位子を新たに設計し、その配位子を合成する。新しく合成した配位子とランタン、アクチニウム、及びガドリニウム等とを反応させ、得られた錯体の分子構造を特定するとともに、錯体の安定性について各種分光法を用いた反応速度解析により明らかにする。最後に本研究で新しく合成したキレート剤の能力について評価し、研究をまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、今年度、購入予定であった実験器具及び機器類が、既存器具類使用で対応可能と判断したためである。また、今年度、使用を計画していたアクチニウムを次年度での使用に変更したためである。 使用計画としては、機器類の購入費とアクチニウムを取得するための旅費に用いる予定である。
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