研究実績の概要 |
血液-くも膜関門(Blood-Arachnoid Barrier, BAB)の実体であるくも膜上皮細胞は、クモ膜下腔の脳脊髄液に面し、脳脊髄液中の物質動態に寄与することが示唆されている。しかし、その輸送機能は未だ明らかにされていない。そこで本研究は、血液-くも膜関門における新たな輸送系を明らかにすることを目的とした。本年度は、細胞から分泌されるナノ粒子である細胞外小胞(エクソソーム)及び環状ペプチドをモデル物質として用い、くも膜におけるそれらの輸送系を解明することを目指した。脳脊髄液中からの細胞外小胞の輸送を定量するうえで、細胞外小胞の動態を定量的に評価する実験系を構築することは重要な課題である。そこで、細胞外小胞の膜表面に局在するテトラスパニンCD63と緑色蛍光タンパク質GFPの融合タンパク質を発現する安定発現株を作成した。さらに、環状ペプチドのモデル化合物としてDestruxin Eを用い、その天然型及び鏡像異性体の絶対定量系を確立した。具体的には、液体クロマトグラフィーと連結した質量分析装置を用い、10-1000 fmol/injectionの範囲で直線性を示す検量線を作成した。脂質膜透過モデルとして人口膜透過性試験(PAMPA)を用い、人工脂質膜における透過性について評価した結果、立体異性体間で有意な差がないことが示された。HeLa細胞を用いた輸送解析から、Destruxin Eは立体異性体を区別されずに、マクロ飲作用以外の能動輸送の経路を介して細胞膜を透過することが示唆された。以上の結果から、細胞外小胞と環状ペプチドの輸送評価系が構築された。
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