研究課題/領域番号 |
19K22600
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
西田 教行 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(医学系), 教授 (40333520)
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研究分担者 |
石橋 大輔 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(医学系), 准教授 (10432973)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | 液相分離 / プリオン病 / アミロイド |
研究実績の概要 |
プリオン病は致死性で感染性の神経変性疾患で、クロイツフェルト-ヤコブ病が知られている。臨床症状としては、急速進行性の認知症から始まり、半年程度で無動無言となり死に至る。病理所見では、脳全体に空胞変性とアミロイドプラークの沈着が観察される。本疾患の病因は、細胞膜蛋白である正常型プリオン蛋白(PrPC)から構造変換した異常型プリオン蛋白(PrPSc)と考えられており、PrPScは単独で感染性を持つ。しかし、その感染性アミロイドの形成過程の詳細は明らかになっていない。 近年、蛋白質が特定の構造を持たない天然変性領域を介して、水溶液中で独自の液相として分離する現象が注目されている。この現象は液相分離と呼ばれ、アミロイド関連疾患の原因蛋白質であるタウ蛋白、TDP-43といった蛋白質も特定条件下で液相として振舞い、液相が固体に転じることでアミロイド様の凝集を形成する事が報告されている。よって、液相の蛋白質はアミロイドの前駆体として機能していると考えられている。申請者は、PrPCがN末端に天然変性領域を持つことに注目し、大腸菌由来のリコンビナント- PrPC(rPrPC)を用いて、試験管内でのrPrPCの液相分離を試みた。これにより、プリオン病におけるPrPSc形成メカニズムの解明を目的として実験を行った。塩を加えたポリマー溶液とrPrPC水溶液を混合すると、直ちに液滴が形成された。液滴は、形成1時間でゲル状の固相に転じる事がFRAPにより明らかになった。長時間反応させた液滴はβシート主体でPK抵抗性であり、部分的にPrPScの特徴を獲得した。一方、天然変性領域であるN末端のアミノ酸残基23-89を除いたrPrPCは、液滴を形成しなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
プリオン蛋白の液相分離に成功し、プロテイナーゼ抵抗性のアミロイドを作成することに成功した。プロテイナーゼ抵抗性のアミロイドは異常型プリオン蛋白の特徴の一つであり、なぜプリオン病が自然発生するのかという知見に貢献する可能性がある。この結果については現在海外の専門雑誌に投稿中である。感染性の評価については、細胞及び遺伝子組み換えマウスを使用して行うが、動物実験は発症まで1年近くかかることがあり、一般的に時間を要するため、若干の遅延がある。
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今後の研究の推進方策 |
現在は、ポリマーの組成や家族性プリオン病にみられる変異をもった組み換えプリオン蛋白を用いて、アミロイドの生成に変化が出るかどうかを実験を行う予定である。作成したアミロイドのウエスタンブロットのバンドパターン及び電子顕微鏡写真から液相分離がプロテイナーゼ抵抗性アミロイドの形成にどのような影響を与えるのか明らかにする。 並行して、アミロイドの感染性の評価を細胞及び動物実験で行う予定である。作成したアミロイドをヒト・プリオンノックイン細胞に暴露する、またはヒト・プリオンノックインマウスの脳内に摂取して感染を試みる。感染性の評価は神経失調症状、神経細胞死の病理学的評価、異常型プリオン蛋白の検出によって行う。 異常型プリオン蛋白が正常型プリオン蛋白を構造変化させるシード活性にも注目し、液相分離がシード活性にどのような影響を与えるかも解析予定である。異常型プリオン蛋白を含む脳乳化剤を液相分離したプリオン蛋白と混合することでシード活性が増強されるかどうかをチオフラビンTの蛍光値により定量し評価する実験系を考案中である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は大学院生が実験を担当したため、人件費が発生しなかった。 次年度では、リコンビナント・ヒトープリオン蛋白およびヒト遺伝子改変プリオン蛋白の作成や試薬の購入に用いる。また、実験補助員の人件費にも使用する予定である。
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