これまでに検討した条件で作成したゲル状のリコンビナントプリオンタンパク(rPrPゲル)は、プリオン病の病原体である異常型プリオンタンパク(PrPSc)と同様に、チオフラビンT(ThT)と結合することやプロテアーゼKに抵抗性を示すことが確認された。そこで、rPrPゲルがPrPScのように正常型プリオンタンパクの構造変換を促進するか検討した。 試験管内で微量のシード(プリオン感染組織等)を正常構造のリコンビナントPrP(基質)に加えて振盪し、基質の構造変換を誘導することができる(RT-QuIC法)。RT-QuIC法において、rPrPゲルをシードとしても、リコンビナントPrPの構造変換を促進しないことを前年度(令和2年度)に報告した。そこで本年度は、基質をrPrPゲルとした場合に、正常構造のリコンビナントPrPを基質とした時と比較して、RT-QuIC法の反応速度や感度に変化がみられるか検討した。しかし、rPrPゲルを基質としてもRT-QuICの反応速度や感度に変化は認められなかった。また、rPrPゲルを頭蓋内接種し、マウスがプリオン病を発症するか検討した。しかし、神経反射異常や持続勃起、歩行障害などの症状は認められず、対照群(dH2Oを接種した群)と生存期間に有意な差は認められなかった。現在、病理学的解析を計画している。さらに、遺伝性プリオン病で見られる変異PrP(V180I)のリコンビナントタンパクで液相分離を起こすか検討したが、液滴は形成されなかった。 以上の結果から、PrPが液相分離を起こすことで、アミロイドの性質を獲得するきっかけとなることが推測された。その一方で、PrPScのように感染性を有するアミロイドになるには、他に何らかのファクターが必要ではないかと考えられる。
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