研究課題/領域番号 |
19K22603
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
服部 信孝 順天堂大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (80218510)
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研究分担者 |
佐藤 栄人 順天堂大学, 医学部, 准教授 (00445537)
波田野 琢 順天堂大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (60338390)
森 聡生 順天堂大学, 医学部, 非常勤助教 (60782878)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | パーキンソン病 / Programmed cell death-1 / 制御性T細胞 / α-シヌクレイン(AS) / 腸脳連関 |
研究実績の概要 |
パーキンソン病(PD)の原因タンパクとして考えられているα-シヌクレイン(AS)が、腸から迷走神経を介して脳へ伝播する事が報告され腸内細菌叢の変化や全身炎症が病態へ関与し、その結果AS凝集を引き起こしている可能性が推測されている。また免疫チェックポイント関連分子であるProgrammed cell death-1(PD-1)をブロックすると、制御性T細胞に作用し腸内の炎症を惹起することが知られ、さらにPDの最も頻度の高い感受性遺伝子グルコセレブロシダーゼ(GBA)遺伝子変異では全身の炎症や免疫異常を惹起することが報告されている。これらの知見から、全身炎症がPDの病態と関連しているという作業仮説を証明すべく計画を立案し、実験を遂行している。昨年度までにPD-1ノックアウト(KO)マウスとヒトAS Tg(BAC Tg-SNCA)マウスを交配しPD-1KO/BAC Tg-SNCAを作成し、野生型(WT)、PD-1KO、BAC Tg-SNCA、PD-1KO/ BAC Tg-SNCA の4群で検討し、40週齢までのマウスについて行動解析、脳内におけるASの蓄積、チロシンハイドロキシラーゼ陽性(TH)神経細胞の脱落など検討したが、4群いずれも群間における有意差は認めなかった。よって今年度、18~20ヶ月週齢の加齢マウスについて行動試験、脳内ASの蓄積を検討した。しかし、いずれの群でも有意な運動機能低下やAS凝集体は確認されなかった。それと並行して現在、PD-1とGBA遺伝子ヘテロ変異(L444P/WT)ノックイン(KI)マウスを掛け合わせ、より炎症を惹起することが想定されるマウスの飼育に成功した。PD-1を阻害することで制御性T細胞による免疫寛容が破綻し、さらにGBA遺伝子変異によりグルコシルセラミドの蓄積に伴い補体の動員など免疫異常が生じ、脳内におけるAS凝集促進の可能性を検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度からの継続として、PD-1KOマウスとBAC Tg-SNCAマウスを交配し、PD-1KO/BAC Tg-SNCA等をマウス各群の飼育を継続した。継続して長期的な飼育を行っており、各群のマウスにおいて加齢による運動機能と脳内でのα-シヌクレインの蓄積を解析した。まず17から18ヶ月齢のマウスに行ったロータロッドによる運動機能の評価では、WT、PD-1KO、BAC Tg-SNCA、PD-1KO/ BAC Tg-SNCAの4群で、いずれも群間における有意差は認めなかった。次に、各群のマウス脳切片について抗AS抗体を用いて、凝集体形成の有無を免疫組織学的に解析したが、いずれの群においても明らかなAS凝集体は認めなかった。更に表現型が重度になることを予想して、先述のGBA遺伝子変異(L444Pヘテロ接合体)KIマウスとPD-1KOマウス、BAC Tg-SNCAマウスの交配を開始した。当初、妊娠マウスは、少数匹を出産し、その仔は生後3週程度まで生育することが判明した。そこで、出産直後より母親を里親に変更し飼育を継続したところ、3週以降にも児の発育が得られた。その後、発育が得られた仔の遺伝子解析を行ったところ、表現型としてGBA L444P ヘテロKI; PD-1 +/-; BAC Tg-SNCAを確認した。野生型と比較しGBA L444P ヘテロKI; PD-1 +/-; BAC Tg-SNCAマウスは明らかに体格が小さく、今後の方針として仔の表現型を観察する。
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今後の研究の推進方策 |
上記の通り、PD-1KO、PD-1KO/BAC Tg-SNCAマウスに加え、GBA遺伝子変異を導入したマウスでの解析を早急に進める必要がある。まずPD-1KOやAS過剰発現マウス単独では明らかでなかった、脳内でASの蓄積やTH神経脱落、運動機能を観察する。免疫組織学的・生化学的なAS凝集体の評価で、検出感度が低い場合には、より高感度な検出法としてReal-time quaking-induced conversion(RT-QuIC)法を用いた解析を行う。次に、PD-1阻害に加え、GBA遺伝子変異を有することから、制御性T細胞による免疫寛容が破綻し、さらにグルコシルセラミドの蓄積や補体の活性化などにより高度な免疫学的異常が生じることが想定される。そこで、脳内や全身での炎症性サイトカインの変動を、脳や脾臓のホモジネートや血液サンプルでEnzyme-linked immunosorbent assay(ELISA)を用いて測定する。さらに、炎症によって誘導される脳内免疫の変化として、活性型ミクログリアの増生や活性型アストロサイトなど免疫組織学的に評価する。加えて、末梢血液から中枢神経への単球やTリンパ球といった免疫細胞の浸潤を、マウス脳で免疫組織学的またはフローサイトメーターなどを用いて評価を行うことで、脳内のみならず全身の免疫機構が神経変性へ及ぼす影響をより詳細に解析する。また、全身炎症の評価として、腸管内細菌叢の解析など全身の免疫変化がPD病態と関連することを実証する。最後に、致死的である可能性もあるがGBA L444P ヘテロKI・PD1-/-・BAC Tg-SNCAの作成も並行して行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予期していなかった、世界的に流行しているCOVID-19感染による研究活動制限や物流制限の影響もあり、次年度使用額が発生した。しかしながら、PD-1KOマウス、PD-1KO/BAC Tg-SNCAマウスとGBA遺伝子変異マウスの交配、飼育を順調に行えており、一定の知見は得られていることからも、実験の大幅な遅れには至っていない。今後の使用計画としては、計画通り、GBA遺伝子変異・PD-1変異マウスの解析を可能な限り迅速に行い、研究計画を遂行する。
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