研究課題
2年計画の1年目に相当する2019年度は、近接性ラベリングの条件検討を行った。当初、植物由来ペルオキシダーゼを改変したAPEX2タグ (Hung V et al., Nat Protoc 2016)を用い実験系確立を目指したが、以下2点の問題が判明した。(1)ラベリング直前に行うビオチンフェノール曝露(30-60分)の細胞毒性が強く、ディッシュ底面から細胞が剥離してしまうなど検体ハンドリングが困難 (2)ラベリング反応(過酸化水素処理1分)が時間およびサンプル状態変化(剥離あり・なし)に鋭敏であり、多数検体同時処理が困難。このため、2019年度後期からは、より侵襲性の低い近接性ラベリングの方法として報告されたTurboIDタグ(Branon TC et al., Nat Biotech 2018)を用いた実験系確立へと切り替えた。TurboIDタグにおけるラベリング反応は細胞培養液中に0.5 mMビオチンを添加するのみで可能であり、APEX2タグを用いた場合と比較してはるかに温和な条件でラベリングが可能であり、細胞剥離などの問題も生じなかった。しかし、ビオチン化タンパク質をストレプトアビジンビーズで回収する段階では、プロテオミクス解析に十分なタンパク質が回収できないことが判明した(APEX2では回収できていた)。試行錯誤の結果、ラベリングの際に余剰となったフリービオチンが細胞内に多量に残存し、このビオチンがストレプトアビジンビーズに吸着し標的タンパク質の回収を妨げることが明らかになった(この現象は原著論文にも記載がない)。細胞融解の後に、限外濾過法によりフリービオチンを1/100程度まで除去することにより、良好な標的タンパク質の回収が可能となることを確認できた。来年度は、最適化されたプロトコールにもとづき本実験に進む予定である。
3: やや遅れている
当初、主たる解析手法とする予定であったAPEX2タグに実施上の問題があり、代替手法(TurboIDタグ)への切り替えを行った。
TurboIDタグを使った本実験(野生型転写因子、機能低下型転写因子、機能亢進型転写因子のセットでのプロテオミクス解析)へと進む。
消耗品購入時に複数の代理店による相見積もりを行った結果、予定よりも安価に調達できた場合があるなどして若干額の繰越が生じた。次年度の予算として組入れ、引き続き効果的・効率的な研究費執行を心がける。
すべて 2019
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
J Clin Endocrinol Metab.
巻: 104 ページ: 6229-6237
10.1210/jc.2019-00657.