研究実績の概要 |
高齢化に伴い心臓病が増加しているが、新しい治療として心臓再生法の開発が求められている。近年iPS細胞の発見により複数の組織特異的転写因子を導入して、ある細胞を別の細胞に直接転換する細胞リプログラミング研究が注目されるようになった。我々は世界に先駆けて心筋リプログラミング研究に着手し、これまでに心筋特異的な3つの転写因子(Gata4, Mef2c, Tbx5)を導入すると、線維芽細胞が心筋細胞に直接リプログラミングすることを世界で初めて発見した。この心筋リプログラミング法は次世代の心臓再生法として期待されているが、我々は加齢に伴って心筋リプログラミング効率が低下することを新たに見出した。そこで本研究では、ケミカルスクリーニングや培養条件を変化させて、加齢に伴う心筋リプログラミング抵抗性の分子機序解明とこれを改善する化合物を同定する。これにより安全で効率的な心筋リプログラミング法を確立でき、心臓再生医療の実現が大きく前進する。我々はこれまでに、成体マウスの線維芽細胞から心筋リプログラミングが硬い培養皿で低下することを見出した。そこで成体マウス線維芽細胞を用いて心筋リプログラミングを改善する化合物のスクリーニングを行った。ヒット化合物の同定は2010年に心筋リプログラミング因子を同定した時と同様に、心筋に転換すると蛍光を発する、αMHC-GFPトランスジェニックマウス線維芽細胞を用いて、Cell Image Analyzerでハイスループットスクリーニングを行った。これまでに8400化合物のスクリーニングを完了し、そのうちの2化合物により成体線維芽細胞からの心筋リプログラミングが改善することを見出した。さらに硬さを感知するメカノトランスダクション経路に関連する化合物が心筋リプログラミング制御に関わることを明らかにした。
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