研究課題/領域番号 |
19K22617
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
佐藤 光夫 名古屋大学, 医学系研究科(保健), 教授 (70467281)
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研究分担者 |
長谷 哲成 名古屋大学, 医学部附属病院, 助教 (30621635)
湯川 博 名古屋大学, 未来社会創造機構, 特任准教授 (30634646)
田中 一大 名古屋大学, 医学部附属病院, 病院助教 (40809810)
川井 久美 名古屋大学, 医学系研究科(保健), 准教授 (50362231) [辞退]
川口 晃司 名古屋大学, 医学部附属病院, 病院准教授 (10402611) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | 上皮間葉細胞転換 |
研究実績の概要 |
上皮間葉細胞転換(epithelial to mesenchymal transition, EMT)は癌細胞が上皮系から間葉系へ転換し悪性度を増強する現象である。これまでは、完全にEMTを完了した細胞の悪性度が最も高いと信じられてきた。しかし、最近の報告と研究代表者の準備データは予想に反し、部分的なEMT細胞、すなわちハイブリッドEMTの方が完全なEMT細胞に比べ癌幹細胞性質などの悪性形質が高いと示唆する。また、ハイブリッドEMTを安定化する未知の因子の存在が推測され、これは癌の悪性形質を決定している有望な治療標的の可能性がある。本研究は肺癌治療標的として期待されるハイブリッドEMTの“安定化因子”の発見を目的とする。2019年度はEMT安定化因子候補である遺伝子A(論文未発表にてAとする)の肺癌細胞における機能を評価した。遺伝子Aノックダウン足場依存性増殖にはほとんど影響がなく、足場非依存性増殖能を強く抑制する結果を得た。 2020年度は、肺がん細胞株パネルを使用して遺伝子Aの発現と上皮系マーカーであるCDH1(E-cadherin)発現および間葉系マーカーであるVimentin 発現との相関を解析した。結果は、遺伝子Aの発現はCDH1と正の相関傾向を示し、逆に、間葉系マーカーであるVimentin 発現と逆相関の傾向を示した。この結果は、遺伝子Aが肺がん細胞の上皮性性質を関連することを示唆した。さらに、オンラインツールを用いて遺伝子Aの肺がん検体における発現量を評価した。腺癌および扁平上皮癌において、正常肺組織と比較すると遺伝子Aが高く発現していることを複数のデータセットにおいて確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2019年度はEMT安定化因子候補である遺伝子A(論文未発表にてAとする)の肺癌細胞における機能を評価した。遺伝子Aノックダウン足場依存性増殖にはほとんど影響がなく、足場非依存性増殖能を強く抑制する結果を得た。2020年度は、肺がん細胞株パネルを使用して遺伝子Aの発現と上皮系マーカーであるCDH1(E-cadherin)発現および間葉系マーカーであるVimentin 発現との相関を解析した。結果は、遺伝子Aの発現はCDH1と正の相関傾向を示し、逆に、間葉系マーカーであるVimentin 発現と逆相関の傾向を示した。この結果は、遺伝子Aが肺がん細胞の上皮性性質を関連することを示唆した。さらに、オンラインツールを用いて遺伝子Aの肺がん検体における発現量を評価した。腺癌および扁平上皮癌において、正常肺組織と比較すると遺伝子Aが高く発現していることを複数のデータセットを用いて確認した。以上の結果は、遺伝子Aが上皮性の性質と関係し、かつ、がん細胞の悪性形質に寄与することを示唆した。
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今後の研究の推進方策 |
肺癌の治療標的としての可能性を持つ遺伝子Aの機能評価を軸に研究を推進する。これまでの結果は、遺伝子Aが上皮性の性質と関係し、かつ、がん細胞の悪性形質に寄与することを示唆した。この結果は、一般的に上皮間葉細胞転換(epithelial to mesenchymal transition, EMT)が、がん細胞の悪性形質に寄与することとは相矛盾するが、一方で、遺伝子Aによる上皮性保持が何らかの機序で癌の悪性形質に関係することを示唆する。2021年度は、この機序解明を目指す。また、遺伝子A以外のハイブリッドEMTの“安定化因子”の発見についても引き続き実験を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は、年度初頭からの新型コロナ感染蔓延により大学における研究活動が著しく制限された。その結果、研究実施の遅延が生じた。2021年度は、「今後の研究の推進方策」に基づいて2020年度に計画した内容を実施する。
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