研究課題
上皮間葉細胞転換(epithelial to mesenchymal transition, EMT)は癌細胞が上皮系から間葉系へ転換し悪性度を増強する現象である。これまでは、完全にEMTを完了した細胞の悪性度が最も高いと信じられてきた。しかし、最近の報告と研究代表者の準備データは予想に反し、部分的なEMT細胞、すなわちハイブリッドEMTの方が完全なEMT細胞に比べ癌幹細胞性質などの悪性形質が高いと示唆する。また、ハイブリッドEMTを安定化する未知の因子の存在が推測され、これは癌の悪性形質を決定している有望な治療標的の可能性がある。本研究は肺癌治療標的として期待されるハイブリッドEMTの“安定化因子”の発見を目的とする。2020年度まで成果としてEMT安定化因子候補である遺伝子A(論文未発表にてAとする)の肺癌細胞における機能を評価し、増殖促進を持つことを示唆するデータを得た。さらに、肺がん細胞株パネルを使用して遺伝子Aの発現と上皮系マーカーであるCDH1(E-cadherin)発現および間葉系マーカーであるVimentin 発現との相関を解析は、遺伝子Aの発現はCDH1と正の相関傾向を示し、逆に、間葉系マーカーであるVimentin 発現と逆相関の傾向を示した。この結果は、遺伝子Aが肺がん細胞の上皮性性質を関連することを示唆した。2021年度は遺伝子Aの機能をさらに解明すべく、複数の肺癌細胞株および不死化気管支上皮細胞株HBECを用いて遺伝子Aの機能を評価した。遺伝子Aのノックダウンが与える影響は細胞間で大きく異なる結果であった。すなわち、増殖促進および抑制の両者を示した。これらの結果は、遺伝子AがEMT抑制因子として機能するにもかかわらず癌促進的な作用も併せ持つことを示唆した。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件)
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