研究課題
膵がんは罹患数と死亡数が増加の一途をたどる代表的難治がんである。膵がんの病態解明と新規治療法開発を目指し、本研究に先立って研究代表者らは、膵がんでDclk1陽性がん幹細胞から膵がん子孫細胞が供給されること、Dclk1陽性膵がん幹細胞の排除により正常膵に障害なく膵がんが劇的に退縮することをマウスモデルで確認してきた。それらの研究成果に基づいて本研究では、令和元年度にヒト膵がん組織を模倣した生体「内外」実験系を構築し、独自のイメージング・システムにより、DCLK1陽性ヒト膵がん幹細胞の動態を経時的に観察することとした。具体的には、以下の検討を行い、研究計画通りの成果を得ることができた。(1)外科的手術または超音波内視鏡下穿刺吸引法で採取したヒト膵がん組織から、ヒト膵がんオルガノイドを樹立する作業を継続して行った。それにより、従来から樹立済みのオルガノイドに加え、ヒト膵がんオルガノイド・ライブラリーを充実させることができた。同時にヒト生体内と同頻度にDCLK1陽性膵がん細胞を認めるオルガノイド系統を絞り込む作業を行った。(2)上記(1)で絞り込んだヒト膵がんオルガノイド系統に、DCLK1-CreERTコンストラクトをCRISPR/Cas9系を用いて、tdTomatoレポーターコンストラクトをレンチウイルスを用いて挿入した。これらオルガノイドに、細胞系譜解析と二光子顕微鏡を適用し、DCLK1陽性ヒト膵がん幹細胞が子孫がん細胞を供給する動態を経時的に観察した。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、独自の生体「内外」ヒト膵がん実験系を用い、がん幹細胞を頂点とするヒト膵がん組織の動態を可視化することも目的とする。令和元年度には、ヒト膵がんオルガノイド・ライブラリーを充実させ、細胞系譜解析と二光子顕微鏡により膵がん幹細胞の動態を可視化する基盤を整備することを目標として設定した。その目標は、上記記載の如く達成できたことから、研究はおおむね順調に進展したものと判断した。
令和元年度に達成した基盤に基づき、今後は膵がん幹細胞の排除が、ヒト膵がんの有効な治療法になりうることを示す実験的根拠を獲得する。これらの検討を通じて、DCLK1陽性膵がん幹細胞を標的とした新規ヒト膵がん治療法開発を目指す。そのため、以下の研究を推進する。(1)ヒト膵がん組織を模倣した新しい生体内実験系として、免疫不全マウスの脇腹皮下に細胞系譜解析可能なヒト膵がん細胞をxenograftとして植え込む。それにより、ヒト膵がん細胞はマウス由来の間質組織(繊維芽細胞、血管など)と混在した腫瘍塊を形成する。その表面に、独自に作成したイメージング・ウィンドウを設置し、ウィンドウ越しに二光子顕微鏡を用い、DCLK1陽性膵がん幹細胞からの細胞系譜解析を行う。(2)膵がん幹細胞の排除によって、ヒト由来膵がん組織が退縮するかを検討する。すなわち、令和元年度に作成したヒト膵がんオルガノイド系統にさらにiCaspase9コンストラクトを導入し、ヒト膵がんオルガノイド培養系(生体外)とイメージング・ウィンドウを介したxenograftモデル(生体内)の双方で、DCLK1陽性膵がん幹細胞の選択的排除によるヒト膵がん組織の退縮動態を確認する。これらの検討を通じて、最終的にDCLK1陽性膵がん幹細胞を標的とした新規ヒト膵がん治療法開発への道を拓きたい。
本研究では、独自の生体「内外」ヒト膵がん実験系を用い、がん幹細胞を頂点とするヒト膵がん組織の動態を可視化することを目的とする。令和元年度には、ヒト膵がんオルガノイド・ライブラリーが、従来作成していたオルガノイドと併せることによって順調に進んだ。また、細胞系譜解析と二光子顕微鏡により膵がん幹細胞の動態を可視化する基盤の整備も順調に進んだ。その結果、令和2年度に予定する免疫不全マウスのxenograft実験系を数的にもより充実させる計画を立てた。さらに、iCaspase9コンストラクトを導入したヒト膵がん模倣系も予備実験を含めて一層充実を要することが明らかとなり、次年度使用額をこれら実験系に充てる計画を立案した。
すべて 2019
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件)
Sci Rep.
巻: 9 ページ: 15244
10.1038/s41598-019-51639-2
Proc Natl Acad Sci U S A.
巻: 116 ページ: 12996-13005
10.1073/pnas.1900251116
Oncogene.
巻: 38 ページ: 4283-4296
10.1038/s41388-019-0718-5
J Pathol.
巻: 248 ページ: 179-190
10.1002/path.5244