骨髄異形成症候群(MDS)は、造血幹細胞より発生して分化障害・造血不全状態になり、一部は急性骨髄性白血病(AML)に進展する高齢者に好発する予後不良ながんである。近年、70歳以上の健常高齢者にも、MDSと同様の遺伝子変異を持つクローン造血・前がん状態が報告され注目されている。ただし、こうしたクローン造血の一部が、MDS幹細胞の発生を経てMDS発症に至るのであり、その病態進展の仕組みは依然として不明である。一方、染色体異常ががんの発生と進展に深く関与することは古くから知られていた。MDSにおいても、トリソミー8 (+8 MDS)やモノソミー7 (-7/7q-)といった数的染色体異常が、MDS病態や生命予後と密接に関連しており、診断・治療法選択のための重要な判断基準でもある。トリソミー8は予後不良因子であるが、8番染色体上の責任領域・遺伝子群は、遺伝子発現変動のみの検証では、MDS幹細胞の不均一性もあって明白にはなっていない。一方、遺伝子変異解析によってトリソミー8 MDSは、ポリコーム複合体を制御するASXL1の変異、またエピゲノム制御異常を惹起するRUNX1変異と有意に共存する。こうした知見から、遺伝子変異・エピゲノム変異とトリソミー8の協調によるMDS幹細胞の発生と病態進展機構の存在が推察された。疾患iPS細胞は-7/7q- MDSでも報告されているが、元来MDS細胞は増殖活性が低く、MDS本来のエピゲノム病態も一度消失している。また、患者由来MDS幹細胞は免疫不全マウスに長期間維持できず、異種移植による解析は極めて困難である。こうしたMDS病態研究の困難を打破するために、ヒト8番染色体導入・マウス変異ES細胞による+8 MDSモデルを新たに確立して、数的染色体異常によるがん発症機構の解明を目的とした。
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