研究課題
修復幹細胞であるMuse細胞はドナー由来の細胞をレシピエントに投与しても、免疫抑制剤を併用していないにも関わらず、半年以上の長期にわたり排除されずに修復した組織内に機能的細胞として生存する。このことからMuse細胞には特殊な免疫抑制機能が備わっている。本研究ではドナーMuse細胞の事前の点滴投与をすることでHLA適合無しに臓器や細胞の移植が可能であるかを検討し、血縁者やHLA適合から解放される新しい移植医療システムのための基礎的データーを集積する。本年度は皮膚移植をベースに検証を進めた。ウサギを用い、ドナーは雄、レシピエントは雌とした。生食水, ドナー骨髄MSC,ドナーMuse細胞(各30万細胞)を耳から静脈投与し、1週間後に同一ドナーの数センチ角の皮膚片(表皮と真皮の両方を切り出したもの)を背中に移植した。継時的に観察をすると生食水群とMSC群は2週までに移植片の拒絶脱落と周辺の強い炎症浮腫が見られたが、Muse細胞群では4週まで炎症浮腫はなく皮膚が生着し、再生していた。Muse群ではウサギIgMが4週までの間、他の群よりも一貫して低値を示した。再生皮膚部位では表皮と真皮の両方においてY染色体陽性の雄細胞(ドナー由来)が確認された。このことからドナーMuse細胞を事前に投与しておくことで、免疫抑制剤無しにドナー組織がレシピエントで生着する可能性が示された。さらに静脈投与されたMuse細胞の全身分布を3日目で調べた。Nano-lanternを導入したMuse細胞をIVISで検出した結果、肺と骨髄に分布することがわかった。これらの事から血管投与されたMuse細胞は骨髄で何らかの作用を行い、それによってドナー移植片の拒絶を有効に抑制し制御している可能性が考えられた。
2: おおむね順調に進展している
交付時の申請では1)同種間移植モデルの確立と実験系のセットアップ、2)ウサギやラットを用いた皮膚移植、3)部分肝移植、4)骨髄内でのレシピエント細胞との相互作用、を大きな4項目として建てた。この中で1と2はほぼ遂行され、さらには、現在はマウスの尻尾皮膚を用いて別系統同種間での皮膚移植とドナー由来Muse細胞投与の効果を検証している。具体的には黒ネズミのC57B6をドナーとし、白ネズミのBalb/cをレシピエントとし、交換皮膚移植の形で尻尾皮膚を移植している。その際、事前に相手側のMuse細胞を血管投与し、その後に皮膚移植を行っている。ウサギと同様にマウスであっても類似の実験結果がでれば、再現性が担保されると期待できる。今後はマウスの皮膚移植実験を進めると同時に、骨髄内でどのような作用がなされているのかを解析したいと考えている。
皮膚移植については上述のようにマウスの実験を進めていく。ただ当初申請時に載せていた部分肝移植に関しては、造血幹細胞移植で代替えをすることを考えている。その理由であるが、参加を予定していた消化器外科医が転勤となり、ラットでの部分肝移植の実施が難しくなったことが理由にある。そこで詳細を検討した結果、GFP-transgenic ratを用い、このラットからGFP陽性の造血幹細胞CD34+細胞を採取し、これを同一系統の野生型ラットに移植する骨髄移植モデルのほうがより簡便であり、しかも造血幹細胞がうまく生着したかどうかをFACSで追えることから、こちらのほうが実験により適しているのではないかと考えている。次年度以降はMuse細胞の事前投与によって造血幹細胞がMHC適合や免疫抑制剤無しに、果たして骨髄に生着するのか、あるいはGFP-CD34+由来の血液細胞が作られるかを検証したいと考えている。
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