前年度は、同種 (allogenic) Muse細胞を事前投与することによって、Muse細胞と同系の造血幹細胞移植がどの程度生着するのかを検討した結果、一定程度拒絶を免れて骨髄に生着し、各種の血液系細胞に分化する可能性を示唆した。今年度は同種Muse細胞の投与によってレシピエントの免疫系細胞の体内分布にどのような変化が起こるのかを検討した。BALB/cマウスに四塩化炭素CCl4の腹腔内投与を行い、肝臓傷害モデルを誘導した。翌日5万細胞のC57BL/6マウス由来Muse細胞を静脈投与し、投与3、7、14日までの免疫系臓器におけるヘルパーT細胞、B細胞、CTL、myeloid-derived suppressor cell (MDSC)、制御性T細胞(Treg)の動態をFACSで解析した。コントロールとして同種Muse細胞の投与を行わず、CCl4による肝臓傷害のみを行った。コントロールと比較し同種Muse細胞の投与がなされると、リンパ節ではB細胞以外の細胞の統計的有意差を持った増加が3日目において見られた。傷害臓器である肝臓では同種Muse細胞の投与がなされることによって、CTL、ヘルパーT細胞、B細胞、Tregが7日以降に顕著に増加していた。注目すべき点として、免疫抑制に関わるMDSCがコントロールと比較してMuse細胞投与によって骨髄から動員され、末梢血を介して胸腺や脾臓に集積すること、Tregが3日では骨髄内で増加し、7日で脾臓や傷害肝臓に集積することがわかった。胸腺でのTregはMuse細胞投与でむしろ減少の傾向があった。MDSCはガンにおける免疫抑制などにも関わることが知られている。特にMuse細胞投与によって胸腺に集積することは興味深い。今後、Muse細胞の事前投与がどのように免疫抑制あるいは免疫寛容を誘導するのか、分子機構の解明が必要になると思われる。
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