研究課題
近年、神経系・液性因子を介した臓器間クロストーク機構が次々と明らかにされている。 長年、皮膚の創傷(キズ)は、皮膚に存在する線維芽細胞や受傷後、創部に遊走する免疫細 胞が治すと考えられてきたが、申請者は「皮膚-肝臓間クロストークによる創傷治癒の制御 」を推測し、皮膚創傷治癒への肝臓の関与について明らかにすることを目的としている。本年度、我々が確立したマウスモデルを用いた解析より、皮膚が損傷すると6時間と早期に肝臓において好中球とNatural Killer T(NKT細胞)の増加が認められた。特に炎症制御に重要であるNKT細胞に注目し、肝臓において増加したNKT細胞が皮膚に流入してきているかどうかをフローサイトメトリーを用いて解析を行った。その結果、NKT細胞は皮膚に集積した白血球中の0.1%未満の割合であった。NKT細胞は少数だとしても高い免疫活性を有することが知られていることから、次にNKT細胞を特異的に活性化するα-galactocylceramide (α-GalCer)を創部局所に投与し、その効果を検証した。α-GalCerを創作成直後から3日目まで連日、マウスの創部に投与し、創作成3、5日目における創閉鎖率を算出した結果、創作成3, 5日目ともに, Vehicle群と比較しα-GalCer群において、肉眼的に創部の縮小がみられ、創閉鎖率が有意に増加した。さらに、α-GalCer群で有意に厚い肉芽組織(新生血管と線維芽細胞で構成)の形成を確認した。次にα-GalCer創部投与による効果についてより詳細に解析するため、創部おけるmRNA発現について解析を行った。創作成1、3日目のmRNA発現を解析した結果、α-GalCer創部投与により、NKT細胞が産生する代表的なサイトカインであるIFN-γ発現が有意に増加していること明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
本年度、マウスモデルを確立し、皮膚損傷後の肝臓における細胞分画の解析、肝臓に豊富に存在するNKT細胞を皮膚に作成した創傷局所で活性化させる方法について検証し、効果を確認した。今後、創傷治癒が遅延する糖尿病環境下におけるNKT細胞の活性化能や皮膚-肝臓連関について解明を予定しているが、マウスモデルが確立し、おおむね順調に進行しているといえる。
今後は、皮膚から肝臓へのシグナル伝達機構について、神経系や液性因子に注目した解析、さらに蛍光ラベルPKH26を肝臓から採取した細胞に取り込ませ、標識した細胞を養子移植する実験などを計画している。
3月に参加予定だった学会や実施予定だった実験がCOVID19の問題により中止となったため。
すべて 2019
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件)
Int J Mol Sci.
巻: 20(22) ページ: pii: E5657.
10.3390/ijms20225657.