本研究は、オルガノイドからの組織再構成を可能にする「in vitro血管発生再現法」をヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)由来肺オルガノイドに応用し、ヒト肺組織を再構成することを目的としている。具体的には、hiPSCからのヒト肺前駆細胞の分化誘導、ヒト肺オルガノイドの開発、「in vitro血管発生再現法」と組み合わせたヒト肺組織再構成について検討を行った。また、血管化オルガノイドを用いて同所性、すなわち肺への移植によるin vivo肺組織再構成について検討を行った。2019年度においては、ヒトiPSC肺前駆細胞と肺オルガノイドの分化誘導法の確立を実施した。肺前駆細胞を分化誘導した後に3次元培養を実施し、1週間後にはオルガノイド形成が確認された。形成されたオルガノイド内には、肺前駆細胞のマーカーNkx2-1、I型肺胞上皮細胞マーカーAQP5、II型肺胞上皮細胞マーカーSFTPCの発現が認められ、肺オルガノイドの分化誘導法を確立することができた。次に、肺オルガノイドの同所性移植法について検討を行った。肺の大きく収縮/拡張するという性質から、肺表面への貼付移植は困難であった。そのため、GFP発現C57BL/6マウス(胎生13日)由来の肺オルガノイドを形成し、8週齢C57BL/6マウス肺への注入移植を検討した。移植2週間後にレシピエント肺にGFP陽性の領域が観察され、肺への同所性移植手法を確立することができた。2020年度においては、血管化hiPSC肺オルガノイドの形成に成功した。さらに、血管化hiPSC肺オルガノイドを用いて免疫不全NOD/Scidマウス肺への注入移植を試み、肺への移植が確認された。以上の結果より、再生医療に応用可能なヒト肺組織創出の基盤技術を確立することができた。将来的に呼吸器疾患を対象とした創薬開発や再生医療への応用が期待される。
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