本研究では、心臓弁や血管および心室壁などの欠損部再建手術に使用する生体吸収性素材の移植片(グラフト)を開発するため、以前より注目されていた生体適合性の良いポリ乳酸のうち、帯電性のある圧電性ポリ乳酸繊維に着目し、そのグラフトとしての基本性能を評価し臨床応用への実現可能性について検討した。 初年度は、圧電性ポリ乳酸繊維が生体に与える反応について検討を行った。その結果、圧電性ポリ乳酸繊維の撚糸の撚り方(巻く方向の組み合わせおよび撚り数)によって繊維内への細胞埋入の程度が変化することがわかった。さらに生分解性能については、今回の植え込み期間である2ヶ月では、圧電性ポリ乳酸繊維に構造の変化するような分解は見られなかった。 次年度は圧電性ポリ乳酸繊維を長期間生体内に植え込んだ際の時間経過による生分解性の変化を他の素材(圧電設計はされていないポリ乳酸繊維およびポリエチレンテレフタレート《PET》)と比較して検討した。その結果、3種のサンプルの中では、ポリ乳酸圧電繊維を使用したものが、通常のポリ乳酸繊維およびPETに比べて、組織の炎症が軽度で、局所感染の起こしにくさとの関連が推察された。また、6ヶ月間の埋植ではポリ乳酸圧電繊維はほとんど分解されていないと考えられた。 今年度は、圧電性ポリ乳酸繊維を用いて大動物(成ヤギ)による慢性移植試験を施行し、心血管系の移植用グラフトとしての実現可能性を検討した。圧電性ポリ乳酸繊維を丸めて直径8 mmの代用血管を作製し、ヤギの左側皮下に(63日間)埋め込んだ後摘出し、左頸動脈内に約20 mmの長さで端々吻合した。30日後も出血等の有害事象もなく経過している。 以上より、圧電性ポリ乳酸繊維は、心血管系の移植用グラフトとしての可能性を持つと考えられた。
|