ヒトiPS細胞由来立体網膜組織を作製し、その組織から網膜神経節細胞を単離しラット及びマウスの眼内へ移植することでその生存に関わる生体内因子の探求を目指している。その評価のためにはヒトiPS細胞由来立体網膜組織内の網膜神経節細胞の蛍光標識が必要であり、前年度ではCRISPR-cas9によるゲノム編集技術の中でも効率が良いと報告されたMMEJ (Microhomologies-mediated end-joining) 法を用いて、Thy1遺伝子のプロモーター領域にGFP遺伝子を連結したノックインベクターをiPS細胞に遺伝子導入したが、編集された細胞を得ることが出来なかった。そこで今年度は、マイクロホモロジーではなく相同配列を前後1kbpに伸長し、さらに標的とする網膜神経節細胞関連遺伝子をThy1からより早期に発現し長期にわたり発現が継続するPou4F2へと変更した。ゲノム編集に効率的なgRNAの選定を行い、cas9ベクターへ組み込んだ。ノックインベクター及びgRNAをiPS細胞に遺伝子導入し、導入したiPS細胞からコロニーをピックアップし、iPS細胞及びGFP遺伝子内のプライマーを用いてノックインされたiPS細胞を同定した。サンガー法にてノックインされたiPS細胞をホモ接合体及びヘテロ接合体に分別した。このノックインされたiPS細胞から立体網膜組織へ分化誘導したところ個々の発生速度に変化があるものの分化誘導40日目以降に立体網膜組織の網膜内層部にGFPの蛍光発現を認めた。この立体網膜組織より凍結切片を作製し、抗Pou4F2抗体及び抗GFP抗体で免疫染色を施行したところ、局在の一致を認めており、網膜神経節細胞が蛍光標識されるiPS細胞であることを確認した。今後はGFP陽性網膜神経節細胞の解析を行う事で生存評価が容易になると考えられる。
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