研究課題/領域番号 |
19K22675
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
江藤 浩之 千葉大学, 大学院医学研究院, 教授 (50286986)
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研究分担者 |
大鳥 精司 千葉大学, 大学院医学研究院, 教授 (40361430)
折田 純久 千葉大学, 大学院医学研究院, 特任准教授 (60638310)
志賀 康浩 千葉大学, 大学院医学研究院, 特任助教 (90568669)
曽根 正光 千葉大学, 大学院医学研究院, 特任助教 (90599771) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | 人工血小板 / 骨折治療 / iPS細胞 |
研究実績の概要 |
難治性複雑骨折時、および不安定性のある腰椎変性疾患治療のための脊椎固定術では、迅速な骨癒合の実現が早期のADL・QOL回復に寄与する。本研究提案は、多血小板血漿(Platelet Rich Plasma: PRP)の患部への局所注入による骨融合促進が可能なことを動物モデルで確認したデータをもとに立案された(J. Bone Joint Surg. Am. 2013;Sci. Rep. 2016)。一方,臨床的には高齢者や外傷を含む臨床症例で全ての患者の自己血由来PRP を安定して調達することは困難であるため、iPS細胞技術を用いてヒト白血球抗原(HLA)を欠損させ,自己免疫反応の誘発を抑制したユニバーサルタイプの人工血小板を大量に生産する手法(Ito, Cell, 2018;Suzuki, Stem Cell Reports, 2020)をベースにiPSユニバーサルタイプの機能拡張型人工血小板を作製し、安全性の高い画期的な骨癒合技術を開発することを目的とする。 令和元年度は、増殖因子を導入していないiPS細胞由来人工血小板の有用性をラット腰椎癒合モデルで確認し、in vivoの評価系を確立した。さらに人工血小板のもとになる巨核球株に骨癒合促進することが期待される因子(BMP2, VEGF, FGF2)を導入した株をそれぞれ作製し、次年度にin vitroのスクリーニング系への準備をほぼ完了した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①骨癒合促進作用のある外来性の成長因子を不死化巨核球株に組み込み、自在に成長因子を制御できる基盤技術確立に成功し、②人工血小板の骨癒合モデルの評価系確立した、ことから、予定通り研究計画が遂行された。 令和元年度の詳細な成果を以下に列挙する。 A) iPS人工血小板の特性解析を実施し、骨癒合促進に関与が期待される複数因子の発現の有無を確認した。B) レンチウイルスベクターを用いて、骨癒合促進に関与が期待されるBMP2, VEGF, FGF2をさらに恒常的に過剰発現する不死化巨核球細胞株を樹立した。C) 恒常的な強制発現システムであるが、巨核球の成熟および血小板産生には影響しないことを確認した。D) これらの巨核球および血小板からは、大量の増殖因子(BMP2, VEGF, FGF2)が放出されることをELISAを用いて確認した。E) 間葉系幹細胞(MSC)を用いた骨芽細胞分化系を確立した。F) ラット腰椎癒合モデルを用いて、人工骨単独と比較してiPS細胞由来人工血小板のフリーズドライ製剤の有意な骨癒合促進を確認した。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定通り、特異的なサイトカインを放出する各高機能人工血小板(BMP2, VEGF, FGF2 各サイトカイン高発現)の作製を完了した。令和2年度は、以下の計画を遂行する。 ①各高機能人工血小板を単独あるいは様々な比率で混ぜて、ヒト骨髄由来のMSCに作用させる。骨芽細胞への分化促進能力を骨芽細胞の初期マーカーであるALPの活性や骨分化マーカーの発現レベルのRT-qPCR解析を通じて、ハイスループットに評価し、骨化能力の最も高い高機能人工血小板の組み合わせ、及びその混合比率を決定する。 ②各分泌因子の下流で活性化されるシグナル経路の阻害薬を用い、骨癒合促進に寄与するシグナルマップを作成しメカニズムを明らかにする。 ③上記スクリーニングで決定した有望な配合条件を候補として、ラット腰椎癒合モデルに適応し、in vivoでの評価を行う。マイクロCTスキャンにより手術部位を撮影し、骨形成体積定量と、取り出した治療後の骨への3点屈曲試験方法を用いた機械的強度の定量測定を指標に評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は、MSCから骨芽細胞への分化系、ラット腰椎モデルの確立が順調に進んだことで、当初予定していたよりも費用が抑えられた。一方で、来年度から、上記in vitroおよびin vivo系を用いて、大規模なスクリーニング実験を行う。 In vivoでは一匹あたりに投与する血小板数が、in vitroの培養系の約100倍必要であり、人工血小板製剤作製に大量のサイトカイン、牛血清が必要となるため高額となる。 さらに、ラット一匹7000千円であり、一群10匹で約7万円の費用がかかる。スクリーニングでは、数十の配合条件を検証する予定であり、次年度の予算に繰り越して使用することとした。
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