研究課題/領域番号 |
19K22676
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
池淵 祐樹 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (20645725)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | 骨細胞 / 細胞外膜小胞 / アポトーシス小体 / 細胞老化 |
研究実績の概要 |
骨細胞は生理的な環境では骨基質中にネットワークを形成して存在しており、マウスの頭蓋骨等から酵素消化によって回収・単離して通常の細胞株と同様に平面培養を行うと、その形態や遺伝子発現といった骨細胞の形質を短期間で消失してしまう。コラーゲンを主成分とするゲル包埋法で三次元培養とすることである程度の改善が認められるが、本研究では細胞老化の影響に関しても解析を計画しており、初代骨細胞を用いた場合には、マウスの個体差や骨細胞調製に伴う種々のストレス刺激、また培養による分化状態の変化などの影響を否定できず、将来的な解析に困難が予測された。そこで、IFNガンマと温度条件によって分化状態をコントロール可能な不死化マウス骨細胞であるIDG-SW3での解析を行うこととした。初代骨細胞と同様の三次元培養、また骨組織中の環境を模して低酸素条件での培養などを試み、骨細胞マーカー遺伝子の発現プロファイルや、細胞老化の誘導条件についてほぼ決定することができた。 In vitroでの検討と並行して、in vivoで骨細胞由来の膜小胞が骨リモデリング中に周囲のどのような細胞へと作用しているかを探索するため、SOSTプロモーターを用いた骨細胞特異的なTgマウスを作出する。この際に、アポトーシス検出用蛍光プローブSCAT3(ECFPおよびVenus間のFRETを利用してCaspase-3活性の有無を識別可能)を付与したコンストラクトにすることで、膜小胞のサイズだけでなく、蛍光波長によってもアポトーシスを起こした骨細胞由来の膜小胞であるかどうか分離可能と考えられる。コンストラクトに関しては作成が完了しており、今後、Tgマウスの作出と骨標本での観察を計画している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画から一部流れを変更して検討を進めている内容もあるが、概ね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
マウス骨細胞由来IDG-SW3を用いて、(1)通常培養、(2)ゲル破断あるいは流動刺激などのメカニカルストレスで骨細胞にアポトーシスを誘導した場合、また(3)細胞老化を誘導した場合の3つの条件下で、培養上清中に分泌されてくる膜小胞を回収し、粒子径や搭載タンパク質のプロファイルにどのような差異が生じるのかを検証する。特に、破骨細胞の分化制御において主要な役割を担うRANKLの分泌量に変化が生じるかどうか、ELISA法でより定量的に比較する。2、3の条件下でRANKLを搭載する膜小胞の分泌量の増大が観察された場合、当該膜小胞に搭載されているタンパク質を標的とした中和抗体を作出する。骨代謝回転が促進された動物モデルとして運動負荷や卵巣摘出マウスを用いて、中和抗体投与による応答性の変化を解析することで、骨リモデリングの起点となる破骨細胞形成に骨細胞由来の膜小胞が寄与していることを検証する。 また、骨細胞の膜小胞選択的に蛍光プローブを発現させることを計画したTgマウスを作出・維持し、同様に骨代謝回転を早めた場合に膜小胞の放出が増加するのか、分泌された膜小胞は破骨細胞や骨芽細胞など、周辺の骨組織を形成する細胞群にどのように作用しているのかを観察する。一連の解析により、骨リモデリングの起点となる破骨細胞形成が時間的、また空間的にどのような制御を受けているのかに関して、重要な知見を得ることが可能と考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
初代骨細胞での解析と並行して、より安定した解析が可能なマウス骨細胞由来の不死化細胞株IDG-SW3での解析を実施するため、適切な培養条件等の検討を実施した。当初予定していた初代骨細胞でのトランスクリプトーム解析など、一部の検討を次年度に実施することとしたため、次年度使用額が生じた。 IDG-SW3を用いたin vitroでの解析、また系統の作出・維持を進めている骨細胞選択的な膜小胞可視化Tgマウスを利用したin vivo解析を計画しており、これらに1年目から持ち越した助成金と合わせて費用を計上している。
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