研究課題/領域番号 |
19K22687
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
坪井 昭夫 大阪大学, 生命機能研究科, 特任教授 (20163868)
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研究分担者 |
高橋 弘雄 香川大学, 医学部, 講師 (20390685)
森 英一朗 奈良県立医科大学, 医学部, 准教授 (70803659)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2023-03-31
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キーワード | 神経科学 / 脳・神経 / 脳神経疾患 / 脳梗塞モデルマウス / 神経可塑性 / 神経保護 / 転写因子 / 低分子量Gタンパク質 |
研究実績の概要 |
本研究において、Npas4の機能を解析する事により、脳梗塞後に生じるニューロンの細胞死を抑制する分子メカニズムを解明する。 A)脳梗塞により発現するNpas4の初代培養ニューロンを用いた機能解析 B)脳梗塞により発現するNpas4の標的遺伝子の同定:①脳梗塞手術2時間後に、発現が増加する遺伝子を、RNA-seq法で解析した結果、200個の候補遺伝子に絞られた。②虚血様負荷後に、野生型マウスの初代培養ニューロンで発現が増加し、Npas4欠損マウスの初代培養ニューロンで発現が減少する遺伝子を、定量PCR法で解析した結果、15個の候補遺伝子に絞られた。③野生型マウス由来の培養ニューロンで予め遺伝子を過剰発現させた後に、虚血様負荷を与えて細胞死が減少する遺伝子を、ヨウ化プロピジュウム染色で調べた。その結果、Npas4の下流因子として、Ras低分子量Gタンパク質ファミリーに属するGemを同定する事ができた。
C)Npas4関連因子を用いた脳梗塞の治療:初代培養ニューロンでは、Npas4やGem遺伝子の過剰発現により、ニューロンの細胞死が抑制される。そこで、アデノ随伴ウイルスを用いて、仔マウスの脳にNpas4やGem遺伝子を導入した後、成体マウスに対して脳梗塞手術を行い、梗塞巣のサイズを解析した。その結果、Npas4やGem遺伝子の過剰発現により、梗塞巣のサイズが減少する事がわかった。 D)ヒトiPS細胞由来の脳オルガノイドを用いた解析:「マウスの脳梗塞におけるNpas4の機能がヒトにも敷衍できるのか?」が治療法の開発に際して重要な鍵となる。そこで、ヒト脳オルガノイドに虚血様負荷を与えた場合に、初代培養ニューロンと同様に、Npas4の発現誘導が起こるかどうかを調べた。その結果、Npas4対するヒトオーソログ遺伝子が、ヒト脳オルガノイドでも発現誘導される事が明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、私が奈良県立医科大学に在籍していた2014年のマウス脳梗塞切片に関するRNA-seq解析から始まり、7年目の2021年8月3日にようやく、米国科学アカデミー紀要(PNAS)にオンライン掲載することができた。
Takahashi H, Asahina R, Fujioka M, Matsui TK, Kato S, Mori E, Hioki H, Yamamoto T, Kobayashi K, Tsuboi A: Ras-like Gem GTPase induced by Npas4 promotes neuronal tolerance for ischemic stroke. Proc Natl Acad Sci USA, 118: e2018850118 (2021).
大阪大学に異動した後、本論文をPNASに投稿したが、エディターから4度のリバイスを求められ、そのコメントの中には、追加実験としてNpas4の下流遺伝子であるGemのノックアウトマウスを新たに作製して、解析することも含まれていた。しかしながら、コロナ禍で追加実験もままならず、すべてのコメントに応えるのに2年もかかった。日本学術振興会の研究助成のおかげで、本研究を継続できたことを、この場を借りて謝意を表する。
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今後の研究の推進方策 |
C)Npas4関連因子を用いた脳梗塞の治療:Npas4の下流因子であるGemは、Ras低分子量Gタンパク質ファミリーの中でも、特に、RGKファミリー(Rad, Rem1, Rem2, Gem/Kir)に属する。私共の研究により、Gemを過剰発現させると、電位依存性Ca2+チャネルの細胞質膜への局在を抑制し、細胞内への過剰なCa2+流入を抑制することにより、ニューロンを過興奮死から保護していることが示唆された。そこで、Gemに関する生化学的、細胞生物学的な機能解析を、初代培養ニューロンを用いて行う。
D)ヒトiPS細胞由来の脳オルガノイドを用いた解析:「マウスの脳梗塞におけるGemの機能がヒトにも敷衍できるのか?」が治療法の開発に際して重要な鍵となる。そこで、ヒト脳オルガノイドに虚血様負荷を与えた場合に、Npas4と同様に、その下流遺伝子のGemの発現誘導が起こるかどうかを調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
Npas4の下流因子であるGemは、Ras低分子量Gタンパク質ファミリーに属する。私共の研究により、Gemを過剰発現させると、電位依存性Ca2+チャネルの細胞質膜への局在を抑制し、細胞内への過剰なCa2+流入を抑制することにより、神経細胞を興奮死から保護していることが示唆された。
そこで、Gemに関する生化学的、細胞生物学的な機能解析を開始したが、当初の想定に反し、Gemの解析時に初代培養ニューロンで産生されるその蛋白質活性が低かったので、虚血により生じる神経細胞死を抑制する機構を解析し難いことが判明した。しかしながら、研究遂行上、Gemを用いた培養ニューロンでの機能解析が不可欠なため、計画を見直し、野生型のGemではなく、より蛋白質活性が高い構成的活性化型の変異体を用いることで、実施期間を延長して解析する必要が生じた。
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