研究課題/領域番号 |
19K22688
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
杉野 法広 山口大学, 大学院医学系研究科, 教授 (10263782)
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研究分担者 |
浅井 義之 山口大学, 大学院医学系研究科, 教授 (00415639)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | 子宮内膜症 / 遺伝子ネットワーク / バイオインフォマティクス / ブーリアンネットワーク / 数理モデル / マスターレギュレータ遺伝子 / HOXC8 |
研究実績の概要 |
近年、様々な疾患の発症において中心的な役割を果たすマスター遺伝子が存在することが報告されている。多くの遺伝子が発現異常を来している子宮内膜症では、一部のマスター遺伝子の発現異常が鍵となって下流遺伝子の発現に影響を与えて子宮内膜症の発症に関与している可能性がある。我々は最近、バイオインフォマティクスの技術を用いた、疾患のマスターレギュレータ遺伝子を推定する解析法を新規に開発した。そこで、我々が保有している子宮内膜症の網羅的なトランスクリプトームデータに公開されている発現制御ネットワークデータを組み合わせて、子宮内膜症におけるマスターレギュレータ遺伝子の同定を行った。 卵巣チョコレート嚢腫から採取した子宮内膜間質細胞(choESC)の網羅的遺伝子発現データと、REACTOMEデータベース(REACTOME.org)から入手した転写制御ネットワークデータを統合し、我々が開発した解析手法(SMITE)によって、子宮内膜症発症のマスターレギュレータ遺伝子候補としてHOXC8を含む12遺伝子を同定した。推定された遺伝子のマスターレギュレータ遺伝子としての妥当性を評価するため、ブーリアンネットワークを用いた遺伝子発現遷移シミュレーション解析プログラムを開発した。同定された12遺伝子について、choESCの遺伝子発現状態から想定された10000通りの発現制御ネットワークにおいて、単独もしくは組み合わせで発現状態を変化させ、合計で10000x4095通り、即ち4095万通りの組み合わせで発現遷移シミュレーションを行った。4095万通りの結果のうち、正常のESCの発現プロファイルに近かった上位0.01%(4095通り)の組み合わせには、HOXC8を含む12遺伝子全てが高頻度に含まれていた。即ち、これら12遺伝子はマスターレギュレータ遺伝子として機能することを意味している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
子宮内膜症におけるマスターレギュレータ遺伝子の同定を目的としている。当該年度は、既知の遺伝子ネットワーク情報を利用し、12個のマスターレギュレータ遺伝子を抽出したこと、さらにこれらの遺伝子をブーリアンネットワークという数理モデルのシミュレーションによってマスターレギュレータ遺伝子として機能することを確認できた。したがって、研究は、おおむね計画通りに進展している。
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今後の研究の推進方策 |
当該年度で同定されたマスターレギュレータ遺伝子の中でHOXC8に注目し、HOXC8の強制発現ベクター(pMXs vector)を作製し、子宮内膜間質細胞(ESC)に導入して強制発現ESCを作製する。 ①この強制発現ESCについて、網羅的mRNA発現解析を行い、強制発現により発現変化が誘導された遺伝子について、KEGGパスウェイ解析とGO(Gene Ontology)解析を行う。これらの結果を、choESCで認める子宮内膜症に特徴的な異常パスウェイや遺伝子機能と比較し、マスターレギュレータ遺伝子の強制発現により子宮内膜症の遺伝子発現プロファイルが再現されているかを検討する。 ②強制発現ESCの細胞増殖能について、強制発現ベクター導入後24/48/72/96時間でESCと比較検討する。また、24時間後に細胞遊走能(migration assay/wound healing assay)、3次元コラーゲンゲルを用いた細胞接着収縮能の解析(3D gel contraction assay)を行い、機能の変化を検討する。 以上から、HOXC8がマスターレギュレータ遺伝子として機能し、子宮内膜症の病態形成に関与することが明らかとなる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では、正常子宮内膜間質細胞と子宮内膜症細胞の3検体のデータに加えて、高精度なシミュレーションを目的として、それぞれにつき7検体を追加し網羅的遺伝子発現データ(マイクロアレイ)を得る予定であった。しかし、3検体のデータを用いたシミュレーションを行ってマスターレギュレータ遺伝子を抽出したのちに、個々の遺伝子について、遺伝子導入などを行い、実際に抽出された遺伝子がマスターレギュレータ遺伝子として機能するかを確認することが重要であると考えた。したがって、当初の予定よりもマイクロアレイ解析の数が少なくなったため次年度使用額が生じた。 次年度は、今年度に抽出されたHOXC8以外のマスターレギュレータ遺伝子について、遺伝子導入と引き続く細胞機能解析やマイクロアレイによる網羅的遺伝子発現変化の解析などを行い、実際に抽出された遺伝子がマスターレギュレータ遺伝子として機能するかを確認する計画である。
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