研究実績の概要 |
概日時計は光と食事によって時刻調節される。まず食事と概日時計との関連を探るため、概日時計の発振を担う時計遺伝子群が肥満にどのような影響を与えるのか、を研究した。哺乳類には白色脂肪細胞と褐色脂肪細胞の2種類の脂肪細胞が存在し、機能は逆である。体内の余分なエネルギーを蓄積する白色脂肪細胞に対し、褐色脂肪細胞は熱を産生しエネルギーを消費する。言い換えると、褐色脂肪細胞を活性化してエネルギー消費を上げることによって体重減少を引き起こすことができるかもしれない。そのために褐色脂肪細胞に注目した。概日時計発振の中核を担うCry1およびCry2遺伝子を共にノックアウトした時計破壊マウスを解析したところ、褐色脂肪組織において脂肪滴サイズの低下を見出した。さらに、遺伝子が機能しない状態とは逆に過剰に働かせた状態を作り出すことを目的とし、CRYに作用する新規低分子化合物群を用いてCRYの機能を後天的に活性化し、褐色脂肪細胞の遺伝子発現に与える影響を解析した。その結果、CRYを活性化すると褐色脂肪への分化が促進されること、つまり褐色脂肪が増えることを見出した(Nature Chemical Biology 16:676-685, 2020)。次に、概日時計を調節するもう一つの重要因子である光が肥満に関与する可能性の検証に取り組んだ。目に存在する光受容細胞は視細胞層を構成する桿体・錐体だけではない。哺乳類の網膜神経節細胞の2-3%は青色光感受性Gタンパク質共役受容体であるメラノプシンを発現している。Melanopsin-expressing retinal ganglion cellsは桿体・錐体に次ぐ第三の光受容細胞として網膜において機能し、概日時計の光応答や瞳孔収縮などの視覚以外の光応答、すなわち非視覚応答を引き起こす。本申請では非視覚応答が概日時計を介して肥満代謝に影響を与える可能性の検証に挑戦し、実際にそれを支持する新規データを得た。
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