昨年度までに肢芽におけるCtBPの標的領域をCUT&Tag法にて同定していたが、これらの結合状態がATAC-seqで得られるオープンクロマチン領域とほぼ重なることが判明した。Tn5 transposaseに依存したアーティファクトである可能性が示唆されたため、今年度はクロマチン免疫沈降法 (ChIP)によるCtBPの標的領域の同定を試みた。しかし、肢芽の細胞数に限界があったことから、得られたChIPデータのクオリティは期待したほど高くはなかった。そのため、今後はよりクオリティの高い結果を得るため、MNaseをベースとしたCUT&RUN法にてCtBPの標的領域の同定を行う予定である。 肢芽でのChIPの結果が芳しくなかったことから、既に公開されているマウスES細胞におけるCtBP2 ChIPデータの再解析を行い、標的領域を調べた。その結果ES細胞において、CtBP2は主にイントロン領域や遺伝子間領域に結合していること、CtBP2結合領域はエンハンサー領域の指標となるP300とも部分的に共局在していることが明らかとなった。これはCtBPは標的遺伝子の転写開始点だけでなく、エンハンサー領域に結合することで遺伝子の発現を制御している可能性を示唆するものである。そこで、肢芽エンハンサー領域群のヒストン修飾状態に着目したところ、CtBP1/2欠損型の肢芽ではH3K27acの蓄積が野生型のものよりも著しく増加していることがわかった。転写開始点においても同様の傾向にあったことから、四肢形成において、CtBPは転写開始点とエンハンサー領域のH3K27acレベルを調節することで、標的遺伝子の発現を抑制するように作用していることが示唆された。この抑制機構が破綻することで、四肢の先端部の癒合を引き起こしていると考えられる。
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