研究課題/領域番号 |
19K22706
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
前川 知樹 新潟大学, 医歯学系, 研究教授 (50625168)
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研究分担者 |
奥田 修二郎 新潟大学, 医歯学系, 准教授 (00512310)
土門 久哲 新潟大学, 医歯学系, 准教授 (00594350)
寺尾 豊 新潟大学, 医歯学系, 教授 (50397717)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | 貪食好中球 / 抗炎症好中球 / チャンバーモデル / 好中球 / 抗炎症 / 免疫 / 歯周炎 / 歯周病治療学 |
研究実績の概要 |
歯周炎は,歯周病原細菌の感染に伴う正常な歯周組織からの病的な発展である.歯周病原細菌の感染初期には,好中球が主な防御機構を司っており,感染細菌を貪食するとともに,炎症性サイトカインを産生し,感染組織への炎症性細胞誘導を引き起こす.その後は,T細胞とB細胞の組織浸潤が認められ,歯周炎は慢性化へと展開していく.炎症寛解期に浸潤する好中球を単離し,機能解析したところ,歯周炎期の好中球と異なり,オプソニン化した細菌に対する反応性が減弱し,IL-10やTGF-β等の抗炎症性サイトカインを産生することが示された.加えて,歯牙結紮除去後に誘導される好中球を抑制すると,抗炎症性サイトカインのIL-10産生が減少し,歯周炎によって破壊された組織の修復が遅延することを見出した.これまで好中球とされていた分画に,炎症の進展に関与する“貪食”好中球と,炎症の寛解に関与する“抗炎症”好中球の2つのサブセットが存在する可能性がある.そこで①桿状核球から貪食好中球および抗炎症好中球の分化に必要な因子を解明すること,②貪食好中球から抗炎症好中球への転換が可塑性に起きている場合に,転換の鍵となる因子を解明することを目的とした. 令和元年度は,貪食好中球と抗炎症好中球の機能解析を行った.マウスの背部に滅菌チタンコイルチャンバーを留置するマウスチャンバーモデルを用い,チャンバーの留置から1~3日後の炎症初期に浸潤する好中球およびチャンバー内の浸出液を採取した.続いて,創が閉鎖する留置14日後のチャンバーからも同様に好中球と浸出液を採取した.採取した好中球は,細菌に対する貪食能,サイトカイン産生能および好中球エラスターゼ活性を比較解析した.さらにサイトカインをLuminexにて測定した.炎症初期と後期に採取された好中球に表現型としての差異を認めたため,歯肉組織からも好中球を単離して解析を行なっている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和元年度は当初予定されていたチャンバーモデルの改変(本モデルに適応するような対応)およびサンプルの採取や各種解析をおこなうことができた.サンプル数としても,予定数の約2倍の数を得ることができ,炎症の程度や採取時期によるサイトカイン量の差異も見出すことができた.バックアッププランとして想定していたマウスの歯周炎を用いた実験では,サンプルからは解析の結果,当初予定していなかった新規因子の変動が認められた.したがって,貪食好中球および抗炎症好中球の発見につながる可能性がある.以上のことから,概ね順調に進歩していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である令和2年度では,新型コロナウイルスへの対応を加味しながら,実行可能な予定されている研究を遂行する.まず初めに,貪食好中球と抗炎症好中球の遺伝子およびタンパク質発現解析を,バイオインフォマティクスに精通する研究分担者と,機能的に差異が認められた炎症初期と後期の好中球に対し,ゲノムワイド関連解析とプロテオーム解析を行い,遺伝的およびタンパク質レベルでの違いを見出し,貪食好中球と抗炎症好中球を定義する.さらにその違いから,抗炎症性好中球への転換もしくは誘導因子を見出す. 続いて,好中球の細胞系譜における抗炎症好中球の存在位置の確定を目指す.両者が桿状核球から分化しているのか,または貪食好中球から抗炎症好中球へと可塑性に転換しているのかを同定する.具体論として,好中球の細胞系譜上の未分化好中球を1細胞ずつ形態学的に単離し,細胞の系譜を次世代シークエンサーと高度計算機による再構成によって一斉に追跡できる方法を用いる.バックアッププランとして,抗炎症好中球の転換もしくは誘導因子が発見できなかった場合は,マウスから抗炎症好中球を単離し,歯周炎や肺炎等の炎症性疾患マウスモデルに移入することで,生体内における抗炎症好中球の機能解析を行う. 貪食および抗炎症好中球が存在することが明らかになれば,これまでの古典的な好中球の学問体系を再興することになり,生体の初期防御から後期の修復期まで関与する好中球を中心とした生体防御・修復システムの構築が可能になる.抗炎症好中球の分化を制御し,自在に誘導することが可能になれば,好中球による過度な炎症性疾患に対し,抗炎症好中球の分化誘導または貪食好中球から抗炎症好中球への自在な転換による治療法が可能になる.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定されていたマウスを用いたチャンバーモデルにおいて,予想よりもスムーズにモデル確立が可能となっていたため,サンプルの委託解析が可能となったものの,年度末に新型コロナ肺炎(COVID-19)のために,委託解析が中断となった.さらに,Luminex等に必要な試薬等が,国外での作成されているものであるために届かなかった.次年度にこれら試薬分を購入し,実験に使用する予定である.
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