研究課題/領域番号 |
19K22708
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
波多 賢二 大阪大学, 歯学研究科, 准教授 (80444496)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | 軟骨細胞分化 / エピジェネティクス |
研究実績の概要 |
令和元年度は初代軟骨細胞を用いて活性化ヒストン修飾の指標であるH3K27アセチル抗体およびH3K4ジメチル抗体を用いたChIP-seqを行い、軟骨細胞において転写が活性化しているゲノム領域を網羅的に検索した。次にATAC(Assay for Transposase-Accessible Chromatin)-seqを実施し、クロマチン構造が緩み転写因子がアクセスしやすい状態になっているオープンクロマチン領域をゲノムワイドに検索した。そして、これら3つのアプローチにより得られたゲノム領域を比較解析し、全てにオーバーラップする領域を軟骨細胞において転写が活性化し転写因子が結合しているエンハンサー領域として18494か所(平均サイズ663bp)同定した。 18494カ所のエンハンサー領域の中で、令和元年度は軟骨細胞分化に必須の転写因子であるSox9遺伝子の上流に存在するエンハンサー領域(E1およびE2)に着目して検討を行った。H3K27ac抗体を用いたChIP-qPCRを行い、E1およびE2領域の定量的解析を行った結果、E1およびE2領域の転写活性は軟骨細胞分化に伴って促進されることを見出した。E1およびE2領域にSox9遺伝子のminimal promoter領域をつなげたレポーターアッセイにより、E1およびE2領域は軟骨細胞において高いエンハンサー活性を示すことを見出した。また、Sox9遺伝子発現の異なる様々な細胞株を用いてE1およびE2エンハンサー活性を検討したところ、Sox9タンパク質の発現とエンハンサー活性は比例していることを見出している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和元年度において軟骨細胞分化に重要な遺伝子のエンハンサー領域を同定することに成功しており、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度は以下の2つの実験を予定している ①In VivoにおけるE1およびE2領域の役割の検討:CRISPR/Cas9ゲノム編集法を用いて、E1およびE2のエンハンサー領域を単独で、また両方のエンハンサー領域を同時に欠失させたマウスを作製する。軟骨形成におけるKOマウスの解析は、新生仔マウスの骨格標本、免疫組織学的検討およびInSituハイブリダイゼーション法により組織学的に検討する。さらに、エンハンサー欠損マウスより初代内容軟骨細胞を回収し、Sox9ならびにCol2a1遺伝子の発現をリアルタイムPCRにより検討する。 ②18494か所のエンハンサー領域の全ての塩基配列を抽出し、塩基配列の検索アルゴリズムであるMEME-ChIP解析、またはHomer解析により転写因子が結合する塩基配列の予測を行う。具体的には、18494か所のDNA塩基配列から軟骨細胞に濃縮されているDNAモチーフ配列を抽出し、その配列をJASPARデータベースに照合することにより、当該モチーフに結合する転写因子を予測する。濃縮された塩基配列の解析加えて、RNA-seqによる遺伝子発現解析と統合解析を行うことで、軟骨細胞で機能する新規転写因子群の包括的な予測が可能となる。そして、新たにクローニングされた転写因子について、軟骨細胞への分化能を有するATDC5細胞に目的遺伝子を過剰発現またはノックダウンさせ、軟骨細胞分化のマーカー遺伝子の発現をRT-qPCR法により検討する。In Vivoでの検討はCRISPR/Cas9ゲノム編集法を用いて、KOマウスを作製し、KOの軟骨形成を組織学的に検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた次世代シークエンサー解析のサンプル収集が遅れたため。また、コロナウィルスの影響により、3月に参加を予定していた学会が延期されたため。 サンプル収集が済み次第、令和2年度に次世代シークエンサー解析を行う。また、3月の学会は8月27日に延期されたため、その際に参加する。
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