研究課題/領域番号 |
19K22715
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
中田 匡宣 大阪大学, 歯学研究科, 准教授 (90444497)
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研究分担者 |
住友 倫子 大阪大学, 歯学研究科, 講師 (50423421)
山口 雅也 大阪大学, 歯学研究科, 助教 (00714536)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | レンサ球菌 / mRNA / 翻訳効率 |
研究実績の概要 |
上気道や皮膚に感染する化膿レンサ球菌等の細菌は,体内のコア温度と比較して低温の環境下で定着し,感染成立を果たす.感染成立後,病原細菌が感染部位から深部組織に伝播する際,環境温度を含む周囲の環境変化に対応して,生存に必要あるいは不必要な因子群を選択する機構が存在すると考えられる.近年,化膿レンサ球菌への感染者数の増加が社会的に懸念されており,詳細な病態発症機序の解明と基礎データに基づくワクチン抗原の開発が求められている.化膿レンサ球菌の表層タンパク質の発現に関する解析過程において,表層タンパク質をコードする遺伝子群に対して転写を促進するタンパク質因子の mRNA 量が培養温度の変遷により変化しないにも関わらず,初期感染部位を反映する環境温度において翻訳量が上昇するという現象を見出した.温度を感知するmRNA 部位として,翻訳領域に位置するステムループ構造を明らかにした.そこで,化膿レンサ球菌が感染部位での定着から深部組織に感染を拡大させる過程において,同様の推定mRNA構造を有する因子群が機能するという仮説を立て,検討した.化膿レンサ球菌の全遺伝子から,同様の位置にステムループを有すると予測される遺伝子群を抽出し,病原性や代謝に関与すると考えられた因子群について組換え体を作製するとともに,抗血清を作製した.抗血清と菌体抽出物を用いた発現解析により,培養温度の変化により発現変動する複数種の因子が明らかになった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
翻訳領域の特定の位置にステムループ構造を有する候補因子群を全遺伝子配列から予測し,温度変化に対応して翻訳調節が行われる複数の因子群を明らかにしたため,課題は概ね順調に進展していると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
これまでに挙げた因子群について,mRNA の翻訳領域に位置する推定ステムループ構造に該当する染色体DNA部位に,アミノ酸の置換が生じないようにサイレント変異を導入した菌株を作製する.変異により生じるコドンバイアスが翻訳効率に影響する可能性を排除するため,コントロールとして,他部位の同じコドン群に変異を導入する.また,ステムループ構造を担うDNA 部位を欠失させた菌株も作製する.野生株,変異株,作製した抗血清を用いて,ステムループが翻訳効率に及ぼす影響を検討する.他の因子が関与する可能性を排除するため, 無細胞転写・翻訳システムを用いてステムループ構造が mRNA の翻訳効率に与える影響を検討する.さらに,作製した菌株とマウス皮膚感染モデルを用いて感染実験を行い,各菌株の病原性を比較し,翻訳領域ステムループ構造による翻訳調節が病原性に与える影響を検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
In silico解析を主体に行うことにより解析対象を限局させ,次年度の解析に備えるためである.次年度では,主に変異株の作製,抗血清の作製,翻訳効率の検討などの分子生物学的解析,ならびに動物実験に使用する.
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