研究課題
乳がん、肺がんや多発性骨髄腫は、高頻度で骨転移と骨破壊病変がみられる難治性疾患である。これらのがんの骨破壊病変は骨痛や神経障害、骨折を生じ寝たきりを引き起こすが、寝たきりによる不動は廃用性筋萎縮や骨萎縮、易感染性の原因となり、がんの進展と生存率低下に関与する。故に、寝たきりを如何に防ぐか、寝たきりとなったとしてもがんの進展に直結しないための治療法や機能回復法が望まれる。本研究は、不動(寝たきり)による免荷が骨転移がんの進展・再発を加速化するメカニズムを、免荷による骨髄微小環境の変化と薬剤耐性休眠期がん細胞との関連を中心に解明し、治療法を確立することを目的とした。本年度は、坐骨神経切除下肢麻痺モデルとギプス下肢固定による免荷モデルで、5TGM1マウス骨髄腫細胞を脛骨骨髄内に移植したマウスでの骨髄微小環境の変化を骨形態計測と免疫組織染色で検討した。坐骨神経切除下肢麻痺モデルとギプス下肢固定を行うと、骨では骨形成に明らかな変化は見られなかったが、破骨細胞数の増加と骨吸収の亢進によって骨量は減少した。骨髄微小環境の制御に中心的な役割を担う骨細胞のRANKL発現の増加がみられたため、骨細胞がメカニカルストレスの低下を感知し破骨細胞分化を亢進することによって、腫瘍進展を促進しているのではないかを考えられた。また、免荷によって他の臓器や骨への腫瘍転移が観察されたことから、GFP-5TGM1マウス骨髄腫細胞とRFP-5TGM1マウス骨髄腫細胞を作成し、それぞれを坐骨神経切除による下肢麻痺側と偽手術側に移植し観察した。すると循環血液を流れる骨髄腫細胞は主に下肢麻痺側由来のものであることがわかった。
2: おおむね順調に進展している
本研究課題では、これまでに坐骨神経切除下肢麻痺モデルとギプス下肢固定モデルを作成し骨と筋肉の萎縮とがん進展の関連について評価方法を確立した。結果、免荷によるがん進展加速化を確たる現象として証明した。また、循環血液を流れる骨髄腫細胞は主に下肢麻痺側由来のものであることが判明し、免荷によって循環血液への腫瘍細胞の遊離が関与することが示唆された。現在、がん進展の加速化が免荷によって引き起こされるメカニズムに、がん細胞のdormancyが骨細胞による破骨細胞分化促進によって再活性化しているのではないかとの仮説を立て、検証を行っている。そのため、当初の予定通り実験計画を実施しており、おおむね順調に研究計画は進展していると思われる。
下肢麻痺モデルで、骨髄腫細胞の全身への転移の促進と骨細胞のRANKL発現の亢進と破骨細胞数の増加を認めたことから、骨髄腫細胞が破骨細胞との相互作用で形質転換し転移能を獲得した可能性が考えられる。そこで、まずは骨吸収阻害薬であるビスホスホネートや抗RANKL抗体を投与し、5TGM1マウス骨髄腫細胞脛骨骨髄内に移植した免荷モデルマウスでの転移の促進が抑制されるか明らかにする。また、骨細胞の関与が考えられるため、骨細胞に特異的にRANKLを欠失させたマウスを用い検討を予定している。
2020年度も引き続き、in vivoでの下肢麻痺モデルと下肢固定モデルによる免荷モデルの確立を行い、その免荷モデルを基にがん進展の解析、評価を行った。計画していた遺伝子組み換え動物の輸入が、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により遅延を生じたため、次年度使用額が生じた。翌年度分として請求した研究費とあわせて物品購入や動物飼育費等に使用する予定である。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (13件) (うち国際学会 2件) 図書 (1件)
Journal of Bone Oncology
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