本年度は16S rRNA遺伝子、23S rRNA遺伝子、およびInternal transcribed spacer (ITS) 領域を含むrrnaオペロン全体を網羅的に回収できるプライマー配列を検討した。過去に報告のある23S rRNA 遺伝子内の共通配列についてデータベースに存在する同遺伝子の塩基配列情報から配列の網羅性を検証したのち、選択された塩基配列をプライマーとして実際の口腔検体を用いて増幅・回収が可能であることを確認した。さらに34名の被験者から取得した口腔4検体(唾液、舌苔、縁上歯垢、縁下歯垢)から抽出したDNAと既知の20菌種を含むmock community DNAについてタグ配列を付与した同プライマーを用いてrrnaオペロン領域を網羅的に増幅・回収した。各検体を精製後等濃度になるよう調整し混合したのちロングリードシーケンサーPacBio Sequel IIを用いて増幅断片群の塩基配列を解読した。塩基配列からおよそ180万の高精度なcircular consensus sequence (CCS) を取得し、DADA2を用いたエラー補正解析により約12000種類のrrnaオペロン配列の存在を確認した。mock DNAから取得した16S rRNA遺伝子の配列解析により検体に含まれる菌種を概ね検出できていることを確認した。さらに被験者検体の解析において16S rRNA遺伝子部位の塩基配列から同一の菌種由来とみられる場合もrrnaオペロン全体の配列は異なる場合があることを明らかにした。異なる被験者間ではrrnaオペロン全体の配列の共有は少なかった。一方で同一被験者では異なる部位の検体でも多くの場合完全に同一のrrnaオペロン配列が認められた。過去に報告されていたとおり唾液検体の細菌構成は舌苔により類似しており、縁上歯垢および縁下歯垢の細菌構成とは大きく異なっていることが示された。こうした結果からrrnaオペロン全体を利用した本解析系が菌種よりも詳細なレベルでの細菌構成決定に有用である可能性が示された。
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