研究課題/領域番号 |
19K22726
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研究機関 | 昭和大学 |
研究代表者 |
井上 富雄 昭和大学, 歯学部, 教授 (70184760)
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研究分担者 |
中村 史朗 昭和大学, 歯学部, 准教授 (60384187)
中山 希世美 昭和大学, 歯学部, 講師 (00433798)
望月 文子 昭和大学, 歯学部, 講師 (10453648)
壇辻 昌典 昭和大学, 歯学部, 助教 (60826634)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | 食欲不振 / 咀嚼 / 嚥下 / 大脳除去ラット動脈灌流標本 |
研究実績の概要 |
食欲不振は、がんなどの肉体的な病気、うつ病などの精神的な病気に加えて、加齢によっても起こる。食欲不振の改善には原因となる脳内メカニズムの解明が不可欠である。本研究は、摂食行動を制御する基本的な神経回路が存在するとされる視床下部から脳幹に着目し、視床下部や脳幹が“食欲不振の状態”になると動脈灌流標本の咀嚼様運動や嚥下様運動が起こりにくくなると仮定し、これらの運動の誘発を指標に“食欲不振の状態”を起こす条件とその背景にある神経メカニズムを探り、新規の食欲不振動物実験モデルの確立を目指すものである。 本年度は、大脳除去ラット動脈灌流標本を用い、咀嚼運動や嚥下運動に関わる顎二腹筋や舌筋を支配する運動ニューロンへの脳幹からの入力に、摂食抑制を起こすことが知られている物質が与える影響を調べた。具体的には、脳幹への微小電気刺激により誘発される応答を顎舌骨筋神経と舌下神経から記録し、灌流液中に薬剤投与を行った。消化管ホルモンの一種であるGLP-1(グルカゴン様ペプチド1)の灌流液中への投与では、脳幹のプレモーターニューロンから運動ニューロンへの直接の入力を示す短潜時の応答と、いくつかの介在ニューロンを介した入力を示す長潜時の応答の両方で、応答を誘発出来る刺激強度の閾値が上昇した。一方で、嘔吐中枢の刺激薬であるヒスタミンH1受容体刺激薬2-ピリジルエチルアミンの投与では、刺激閾値は変化しなかったが、短潜時、長潜時の応答ともに振幅が一律に減少した。これらの結果から、GLP-1と2-ピリジルエチルアミンは、異なったメカニズムで顎二腹筋や舌筋の活動を抑制する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、摂食抑制を起こすことが知られている2種類の薬剤について、脳幹刺激によって顎運動や舌運動に関わる運動ニューロンに起こる応答の変化を調べた。しかしながら、摂食抑制を起こす物質は、他にも多くが知られており、これらの検討も必要である。また、大脳除去ラット動脈灌流標本において、皮質脊髄路の刺激で咀嚼様運動を起こすことが予想以上に難しく、研究に多少の遅れが出ている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、摂食抑制に関わる他の薬剤の効果について調べるとともに、大脳除去ラット動脈灌流標本において咀嚼様運動を起こす条件をさらに検討していく。また、現在、嚥下様運動については、咽頭への注水刺激と末梢神経への電気刺激の両方で安定して誘発が出来ていることから、嚥下様運動を指標にして新規食欲不振動物実験モデルの確立をめざす。
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次年度使用額が生じた理由 |
GLP-1や2-ピリジルエチルアミン以外で、摂食抑制を起こす物質をスクリーニングし、本実験系で効率よく摂食抑制を起こす条件の検索がもう少し必要である。また、大脳除去ラット動脈灌流標本において、皮質脊髄路の刺激で咀嚼様運動を起こすことが予想以上に難しく、研究に多少の遅れが生じたため、次年度使用額が発生した。次年度は、これらの点の解析と、食欲調節に関わるニューロン活動の解析に経費を使用する計画である。
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