研究課題
本研究は、ゲノム編集技術を用いた遺伝子発現活性化(Crispr-A, Aは活性化activationの意味)または遺伝子発現ノックアウト(Crispr-KO)ライブラリーにより、活性化またはノックアウトされた遺伝子機能を、Wntシグナル活性依存性の薬剤感受性レポーターシステムで評価することで、骨形成制御因子を同定することを、目的とする。そのために、Wnt活性の上昇に応じて赤色蛍光色素の発光とともにゼオシン耐性を獲得するシステムと、Wnt活性の上昇に応じて緑色蛍光色素の発光とともにジフテリア毒素感受性を獲得するシステム の2種類を作製した。前者はBAR (beta-catenin activated reporter)-RedZeo、後者をBAR-DTR-GFPと命名した。両システムを導入するためのレンチウイルスベクターを作製し次いで、レンチウイルス感染によりレポーターシステムを導入したモノクローナルST2細胞とHEK293細胞モノクローン細胞を樹立した。また、Wnt3a処理したマウス骨髄間葉細胞株ST2細胞をリン酸化タンパク質量分析に供し、Wntシグナルによるタンパク質リン酸化の変化を解析した。5つのBiological replicateにおいて共通にシグナル強度が上昇するリン酸化ペプチドを得ることが出来た。そして、骨髄間葉細胞の骨芽細胞分化および脂肪細胞分化過程の双方において、TGFbeta ファミリーのシグナルが大きく変動していることがわかった。これらのン酸化が亢進したTGFbeta ファミリーのmRNA発現変化を解析した。今後は、リン酸化部位変異タンパクをST2細胞などの未分化間葉系細胞に過剰発現させることで、同定したリン酸化の生物学的意義を解明する予定である。
2: おおむね順調に進展している
Wnt活性の上昇に応じて赤色蛍光色素の発光とともにゼオシン耐性を獲得するBAR-RedZeoレポーターとCrispr-A、Crispr-KOシステムを組み合わせることで、Wntシグナル促進または抑制因子、すなわち骨形成促進または抑制因子を単離することが出来た。Wntシグナルによるタンパク質リン酸化の変化を、Wnt3a処理を施したマウス骨髄間葉細胞ST2細胞を用いて、リン酸化質量分析法で調べた。5つのBiological replicateにおいて共通にシグナル強度が上昇するリン酸化ペプチドを得ることが出来た。その結果TGFbetaファミリー分子およびその下流のシグナルが動いていることが判明した。そして骨髄間葉細胞の骨芽細胞分化および脂肪細胞分化過程において、これらのリン酸化ペプチド遺伝子のmRNA発現変化を解析した。その結果、リン酸化質量分析をサポートするようにTGFbetaファミリー分子およびその下流の分子のmRNA発現が上昇していることがわかった。
2021年度において、ST2細胞でWntシグナル依存的にTGFbetaファミリーペプチドのリン酸化亢進が明らかとなった。リン酸化の意義を、リン酸化部位変異タンパクをST2細胞などの未分化間葉系細胞に過剰発現させることで解明する予定である。このリン酸化が未分化間葉系細胞の分化方向振り分けに関与するのか、骨芽細胞分化や機能に関与するのか明らかにする。リン酸化分子の役割解析にとどまらず、この間葉細胞から分泌されるTGFbetaファミリー分子そのものの分化振り分け活性の有無、破骨細胞分化促進機能や、さらにはカルシウム代謝、骨密度、軟組織石灰化などの内分泌機能調節への関与についても検討する予定である。以上の戦略により、WntとTGFbetaシグナルの協調作用による内分泌疾患制御機構を明らかにする。
Covid-19の蔓延防止のため、学会発表がweb参加に限られたため、当初の計画と異なり旅費が、かからなかった。次年度は、通常対面開催が予定させているため、本課題の研究成果発表のための日本骨代謝学会および米国骨代謝学会参加に伴う旅費に使用する予定である。
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