エンテロウイルスD68(EV-D68)は2014年には北米やヨーロッパなどで大規模な流行が起こり、その際に喘息様発作など呼吸器症状だけなく、急性弛緩性麻痺の症例が報告されたことで世界的にも注目を集めたウイルスである。2015年には日本を含めアジアでも急性弛緩性麻痺の症例が報告されている。我々はフィリピンのビリラン島で呼吸器ウイルスのモニタリングを継続的に実施してきており、EV-D68についてもさまざまな解析を実施してきている。フィリピンにおいても日本と同様に2015年にEV-D68の流行を認めているが、この年の流行株はClade Bに分類されるウイルスであった。2018年にもビリラン島で流行を認めているが、この年の流行株のほとんどはClade Dに分類されるウイルスであった。我々は以前にClade間で抗原性の違いがあることを示しているが、抗原性の異なるウイルスが流行することが流行規模を決定する要因である可能性がある。このため、ビリラン島で採取された検体から検出されたEV-D68の遺伝子解析を行い、Clade BとClade Dのウイルス間に抗原性に重要なVP1のBC-Loopにアミノ酸変異が認められることを見いだした。またビリラン島で採取された血清を用いて2015年・2018年の流行後にそれぞれのCladeの抗体価が上昇していることを示した。これらの結果はClade間のアミノ酸変異が流行規模を決定する要因である可能性を示唆するものである。COVID-19パンデミックにより、ビリラン島での検体採取が中断していたが、2020年9月に検体採取を再開し、EV-D68も検出されてきており、これらのウイルス解析も進めている。
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