研究課題/領域番号 |
19K22735
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
渡邉 高志 東北大学, 医工学研究科, 教授 (90250696)
|
研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
|
キーワード | 転倒 / 予測 / 慣性センサ / ニューラルネットワーク / 歩隔 |
研究実績の概要 |
療法士や看護師らは,患者の様子から転倒発生の兆候を経験的にとらえることができる場合がある.本研究では,転倒発生後の検出や転倒しやすさのリスク評価ではなく,転倒発生の兆候をとらえる技術の開発を目的とし,運動学的情報による転倒発生の兆候の推定法を開発するとともに,自律神経系が関わる生体情報や睡眠情報の利用の有効性を検討する.本年度は以下の研究を実施した. (1)慣性センサ情報による転倒に関わる運動の評価法の検討:前年度の検討で,これまでに報告されてきた指標での評価だけでは不十分であることを確認したため,転倒に直接的に関わる歩行立脚期初期の足部異常運動の検出・評価法の開発を進めた.慣性センサ信号から算出した足部の2つの傾斜角度の分布で健常者の角度範囲を前年度に作成したが,その分布は正規化ストライド長に依存することを新たに確認した.そこで,ストライド長を変化させて歩行計測を実施し,正規化ストライド長をもとに角度分布を9グループに分割して,健常者歩行に基づく基準を作成した.片麻痺者を対象に,分布の偏りから異常の程度を2段階で評価した結果,基準の範囲外になる割合が健常者と同等以下であっても,異常と判断される場合を確認した.また,評価する角度を抽出するための歩行事象タイミングの検出法として,ニューラルネットワーク(ANN)による自動検出法を開発し,健常者歩行での有効性を確認した. (2)学習による歩容変化の検出に基づく転倒発生の兆候の推定:転倒発生の兆候を歩容変化でとらえることを考え,前年度に検討したANNを用いて,歩容変化検出法の開発を行った.文献調査に基づき,転倒の一因と考えられる歩行運動の制御能力の変化が歩隔の変化に現れると想定し,腰部に装着した慣性センサから歩隔の変化を検出する方法を検討し,健常者歩行,高齢者模擬歩行,片麻痺者模擬歩行において,歩隔変化の検出の実現可能性を確認した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究実施計画に基づき,以下の研究を実施して成果が得られた. (1)慣性センサ情報による転倒に関わる運動の評価法については,まず,転倒に直接的に関連する足部と床面との接地時の状態を評価するために,昨年度に検討した着地時の足部状態の評価をさらに発展させ,正規化ストライド長に基づく評価基準のグループ化を実施した.これにより,着地時付近での足部異常運動を検出・評価するために,より詳細で,個人差に適応可能な基準を構築した.そして,片麻痺者の歩行を対象に,異常運動の2段階での評価を試みた結果,健常者歩行の運動の範囲内にあっても,分布の偏りから異常運動の程度を評価可能になることを確認した.さらに,足部異常運動を評価する際に必要な歩行事象タイミングをニューラルネットワークにより検出する方法を開発し,健常者歩行で実用性を確認した.これにより,評価指標の自動算出が可能になることを確認した. (2)学習による歩容変化の検出に基づく転倒発生の兆候の推定においては,腰部に装着した慣性センサ信号を入力とするニューラルネットワークにより,健常者通常歩行,高齢者模擬歩行,片麻痺者模擬歩行の各々において,歩隔の増加を検出可能であることを確認した.歩隔の増加は,歩行動作の制御能力の低下に関連して生じると考えられ,歩行動作の制御能力の低下は転倒の要因の一つとして考えられていることから,転倒が発生する前に,転倒発生の兆候を検出する可能性がある. 上記の他,当初導入予定であった慣性センサの販売が大幅に遅れ,購入の見込みが立たないことから,他の慣性センサを調査して導入し,計測環境を整備した.一方で,コロナ禍により,病院での入院患者による計測を延期しているため,その実施方法が課題となっている.
|
今後の研究の推進方策 |
コロナ禍により,病院での入院患者による計測を延期しているため,この間に,転倒発生に直接的に関係すると考えられる足部の着地付近での異常運動の定量評価法の確立,ならびに,歩隔等の歩容変化を慣性センサで検出する方法の確立を推進する.特に歩容変化は,転倒発生に間接的に関わり,かつ,転倒発生の兆候になると考えられる歩行運動の制御能力の変化を反映すると考えられることから,転倒発生の兆候の検出において有効な方法になると考えられる.本研究では,歩容変化として歩隔の変化に着目し,これまで,健常者歩行,高齢者模擬歩行,片麻痺者模擬歩行で実現性を確認したが,有効な慣性センサ信号に差異がみられたので,その原因を調査するとともに,センサ装着部位,センサ信号を精査し,実用的な方法の開発を進める.特に,実利用を想定してセンサ着脱の影響を検証し,影響が生じる場合には信号の校正処理方法を検討する. ニューラルネットワークによる歩行事象タイミングの自動検出法については,健常者歩行では十分に実現可能であることを確認した.これは,高齢者歩行にも適用可能になると期待されるが,運動機能障害を有する患者の歩行は健常者歩行から大きく異なるので,適用には課題があると考えられる.特に,患者の動作の個人差が大きく,ニューラルネットワークの学習データの収集が課題になるので,健常者による模擬歩行での近似的なデータの利用や,患者で計測した少ないデータによる学習方法を検討することで,健常者歩行から異なる歩行動作の場合にも適用可能な方法の開発を進める. また,病院での入院患者での計測が延期になっているため,慣性センサによる運動と生体情報の計測を実施して検証する課題について研究協力者と相談し,実施可能な部分から調整して行うとともに,健常者による計測での検討も進める.
|
次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により,学会参加のための旅費,入院患者での計測を実施する際に必要となる旅費および物品費などが未使用となったため,次年度使用額が生じた.次年度使用額については,当初予定していた施設での入院患者での計測の実施が難しくなることも想定されることから,健常者での予備試験や他施設での実施にむけて,必要となるセンサの購入と試験を実施するために使用する計画である.
|