アドバンス・ケア・プランニング(ACP)は実施されれば効果があることがわかっているが、問題なのは、「ACPを始めるきっかけがない」ことである。本研究の目的は、医師がACPの話し合いを始めるきっかけとして、客観的指標のみを用いた精度の高い予後予測を提示することが有効かを検証することである。令和4年度は表記課題について、ランダム化比較試験を実施した。 対象:現在がん治療をしている医師 方法:マクロミル社のモニターに参加を呼びかけ、研究内容を説明し、研究参加の同意を得た後に、以下の3条件によりブロックランダム化した(経験年数10年以上、緩和医療が専門、代理意思決定の経験)。対照群では患者の予後を3ヶ月以内に亡くなってもびっくりしない状態と主観的に伝え、介入群ではそれに加えて、客観的予後予測(56日の生存確率50%、28日は70%)を伝えた。主要評価項目:ACP実施に対する意欲(Likert尺度6項目)、副次評価項目:代理決定者を決めておくことへの意欲とした。 結果: 223名の医師が参加し、平均年齢は49.1歳、標準偏差11.3歳だった。男性が187名(83.9%)だった。106名が対照群に、117名が介入群に割り付けられた。患者情報提供前のACP実施に対する意欲のある医師の割合は94.1%だった。患者情報提供後は、介入群では96.5%、対照群では94.3%の医師が意欲があると回答し、両群に有意差はなかった(p=0.0862(χ二乗検定))。代理決定者を決めておくことへの意欲にも両群で有意差はなかった(97.5% vs 92.5%、p=0.4193(χ二乗検定))。 考察:精度の高い予後予測の提示は、医師のACP実施に対する意欲を向上させなかった。ACPの実践をすすめる為には、医師や患者のバリアを下げる働きかけ(話し合いの意欲がある患者を予め選択して実施する、など)が有効かもしれない。
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