2014年にわが国は約70年ぶりとなる国内でのデング熱アウトブレイクを経験した。国内には媒介蚊であるヒトスジシマカが生息しているため、インバウンドの増加に伴い輸入症例が増えることで、今後も国内感染事例が発生する可能性は十分にある。本研究は、当初の計画では、東京オリンピック・パラリンピックに備えて、①都市部における人口学的、環境学的なデング熱リスク因子を特定し、②デング熱リスクマップを作製することで、③アウトブレイク時に行うデングワクチン接種戦略の方法論を確立することを目的としていた。しかし2020年1月からの新型コロナウイルス感染症の流行拡大に伴い、海外渡航が困難な状況となった。また検疫の強化により輸入症例の数が激減した。さらに2020年に開催予定であった東京オリンピック・パラリンピックは、2021年に無観客で開催された。このことから当初の研究計画を大幅に見直し、国内において海外からの輸入症例の発生リスクを定量的に評価すること、国内発生症例の早期探知アルゴリズムを構築することを主眼とすることにした。 2019年に沖縄県で輸入例か国内感染かの判定に苦慮する症例、東京都で関西方面に修学旅行に行った後に診断された症例が報告され、これらに関する疫学情報の分析を行った。また過去に国内で報告された輸入症例の帰国日から発症日までの期間に関するデータを収集し、潜伏期間の推定を行った。新型コロナウイルス感染症のパンデミック及び東京オリンピック・パラリンピックが輸入感染症の動向に及ぼした影響を明らかにするために、2016年以降の輸入感染症症例について記述疫学的に分析を行った。
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