研究課題/領域番号 |
19K22777
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研究機関 | 和歌山県立医科大学 |
研究代表者 |
関根 勇一 和歌山県立医科大学, 医学部, 助教 (20396295)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | 育児放棄 / シナプス接着分子 / 養育行動 |
研究実績の概要 |
(1)Lrrn4遺伝子欠損雌マウスにおける養育行動:母性行動を検討するために、未経産雌マウスを用いて仔運びテストを行った結果、野生型マウスと比べ、Lrrn4遺伝子欠損型において仔を巣に運び入れるまでに要する時間が有意に延長していた。また、母親マウスによる養育行動を検討するために、出産3日後の授乳中の母親マウスを用いた仔運びテストを行った結果、未経産雌マウスと同様の傾向が認められ、現在、個体数を増やして解析中である。 (2)Lrrn4遺伝子欠損未経産雌マウスにおける認知機能、活動性、及び情動行動:①認知機能:仔の認識に必要な視覚機能を視覚性置き直しテストにより検討した結果、野生型マウスとの間に有意な差は見られなかった。また、聴覚機能は音響驚愕反射により、嗅覚機能は嗅覚弁別テストにより現在検討中である。②活動性:新規環境における活動性をオープンフィールドテストにて検討した結果、活動性の指標である移動距離に有意な差は認めなかったが、探索行動や繰り返し行動の指標である立ち上がり行動がLrrn4遺伝子欠損型で有意に増加していた。一方、ホームケージにおける立ち上がり行動に有意な差は見られなかった。③不安行動:オープンフィールドテストの中心区域滞在時間、高架式十字迷路テストのオープンアーム滞在時間、明暗選択テストの明室滞在時間を指標に検討した結果、高架式十字迷路テストのオープンアーム滞在時間がLrrn4遺伝子欠損型で有意に増加していたことから、高所への不安傾向が低い可能性が示唆された。これらの結果より、Lrrn4遺伝子欠損マウスが、新規環境における不安傾向の低下と探索行動の亢進により、仔への関心や注意力が低下し、仔運び行動低下を惹き起こした可能性が考えられ、Lrrn4遺伝子欠損マウスは育児放棄の親側の主要因と考えられる「仔への関心が低下した」育児放棄モデルマウスであると示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
行動解析の結果から、Lrrn4遺伝子欠損雌マウスは新規環境における探索行動の亢進と仔運び行動の低下を示すことが明らかとなり、育児放棄の親側の主要因と考えられる「仔への関心が低下した」育児放棄モデルマウスであることが示唆された。今年度に予定していた行動解析は、嗅覚弁別テスト、音響驚愕反射、3チャンバー社会性テストに関しては個体差が大きいため、個体数を増やして解析中であるが、それ以外は終了しており、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
(1)Lrrn4遺伝子発現細胞の同定:養育行動や立ち上がり行動との関連が報告されている大脳辺縁系等におけるLrrn4発現細胞の同定を、Lrrn4-LacZノックインマウスを用いて、β-galactosidaseと神経細胞マーカーとの二重免疫組織染色法により行う。 (2)Lrrn4欠損マウスのシナプス・神経回路異常の検討:(1)で同定した神経回路やシナプスの異常の有無を組織学的・生化学的・分子生物学的手法により、セロトニンやドーパミン濃度の異常の有無を高速液体クロマトグラフィーを用いて検討する。 (3)Lrrn4欠損マウスの仔運び行動にて活性化する神経細胞の組織学的解析:仔運び行動という活動依存的に活性化される神経細胞の神経伝達に異常がある可能性を細胞レベルで捉えるために、活動依存的に発現の認められるc-fosの発現レベルや発現パターンを大脳辺縁系等で免疫組織染色法を用いて検討する。 (4)Lrrn4のシグナル伝達機構の解明:Lrrn4のリガンド、レセプター、結合分子を同定するため、Lrrn4細胞外領域と免疫グロブリンのFc領域との融合タンパクを作成する。仔運び行動時に活動が見られる脳領域を中心に融合タンパクの結合部位を検索する。同定されたLrrn4-Fc結合細胞から、cDNAライブラリーを作製し、レトロウィルス発現クローニング法を用いてLrrn4結合分子をクローニングする。また、Lrrn4の海馬に強く認められることから、特異的抗体を用いて海馬からLrrn4を免疫沈降し、結合してきた分子を質量分析解析により同定する。さらに神経細胞にLrrn4を過剰発現させる目的で、神経特異的プロモーターLrrn4発現コンストラクトを作成し、初代神経培養系にて発現させ、免疫沈降法等による結合タンパク質同定やウェスタンブロット法によるシグナル伝達経路の解明を行う。
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