[1]Lrrn4のプロモーター下にLacZ遺伝子を組み込んだLrrn4ヘテロマウスのLacZ染色により、養育行動や探索行動との関連が報告されている内側視索前野核や大脳辺縁系におけるLrrn4の発現を検討した。その結果、大脳辺縁系の中でも特に海馬(CA1~CA3、歯状回、脳梁灰白層)と視床下部の乳頭上核にLrrn4発現細胞が多く見られた。乳頭上核から海馬への投射回路は新規性情報の伝達に関与することが報告されていることから、Lrrn4がそれらの神経回路に発現している可能性が示唆された。海馬におけるLrrn4発現細胞を同定するため、β-galactosidase(LacZ)検出蛍光試薬であるSPiDER-βGalと神経細胞やグリア細胞マーカーとの組織二重染色法を行ったところ、Lrrn4発現細胞はNeuN陽性、GFAP陰性、CNPase陰性、Iba1陰性であったことから、Lrrn4は神経細胞に発現し、アストロサイト、オリゴデンドロサイト、ミクログリアには発現していないことが示唆された。また、海馬においてLrrn4発現細胞はGluR2/3陽性、GABA陰性であったことから、Lrrn4は興奮性神経回路(歯状回-CA3-CA1)のグルタミン酸作動性ニューロンに発現していることが示唆された。 [2]Lrrn4のシグナル伝達機構の解明のため、マウスの海馬を含む終脳の初代培養神経細胞にLrrn4を発現させ、免疫沈降法により結合する分子の同定を試みた。質量分析解析により約50kDaの膜タンパク質の同定に成功した。 <研究期間全体> 行動解析の結果より、Lrrn4欠損マウスは探索行動の亢進を伴う育児放棄モデルマウスであることが示唆された。組織学的解析とLrrn4結合分子の探索結果より、海馬神経回路におけるLrrn4のシグナル伝達が、正常な養育行動の維持に関連している可能性が考えられる。
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