単純ヘルペスウイルス(HSV)は、初感染後に人の神経節に潜伏感染する。潜伏したHSVは再活性化に伴い脳炎や口唇ヘルペス、性器ヘルペス、皮膚疾患、眼疾患、全身性の新生児ヘルペスウイルスなど種々の疾患を引き起こす。世界保健機構の推計によれば、世界人口の半数以上が潜伏感染状態のHSVを有するキャリアとなっており、全人口の半数が感染者となる感染症は他に例が無い。現行の抗ヘルペスウイルス薬はウイルス複製を阻害する為、複製していない潜伏感染状態のHSVを排除できず、HSVの再活性化を予防する手段が無い。我々は宿主因子がHSVゲノムに直接相互作用し、潜伏感染時に唯一合成されるウイルス因子LATの発現量を低下させる事が「再活性化の引き金」となる可能性を見出した。本研究では、見出した宿主因子との結合部位に変異を導入したdecoy LATを外来的に発現させることで再活性化を阻害し、潜伏感染を持続させることで再活性化を抑制出来るか検証する。これにより、既存の薬剤では不可能であった、活性化阻害による発症予防法の確立を目指す。 本研究において、宿主因子が結合するLAT領域の同定した。これより、宿主因子結合領域を欠失させたLAT(decoy LAT)発現プラスミドを作製し、培養細胞にdecoy LATを発現させて宿主因子との共存下でのLAT発現状況を検討した。decoy LAT発現プラスミドから発現したdecoy LATおよびそれから派生するマイクロRNAの発現量は、宿主因子存在下でも一定量の発現が持続する事を確認した。この事より、decoy LATは宿主因子による影響を受けず、安定的にLATを発現して潜伏感染持続、再活性化予防を助長する可能性が示された。
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