研究課題/領域番号 |
19K22786
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研究機関 | 防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究施設、病院並びに防衛 |
研究代表者 |
松尾 洋孝 防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究施設、病院並びに防衛, 分子生体制御学, 准教授 (00528292)
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研究分担者 |
高田 龍平 東京大学, 医学部附属病院, 講師 (90376468)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | ゲノム個別化予防・医療 / 血液型 / トランスポーター / 遺伝子変異 / 薬物動態 / トランスレーショナルリサーチ |
研究実績の概要 |
申請者らが研究対象としてきた痛風患者集団のみならず、日本赤十字社の研究員とも共同研究を行うことで、世界最大規模となる2,500例のJr(a-)型の対象者を収集できている。この対象者において、約80%がABCG2遺伝子のQ126Xホモ変異であることが見出された。残りの約20%について次世代シーケンサーを使用したABCG2遺伝子の全エクソン配列の解析を行い、複数の変異を見出した。これらの変異が引き起こす現象についての解析が現在進行中である。Jr(a-)型の原因となるABCG2遺伝子の変異は、その輸送機能の消失だけでなく、細胞膜における発現も消失していることが想定されるため、検出されたABCG2の変異体を培養細胞に強制発現させて、その細胞内の局在(細胞膜への発現の有無)について評価を進めている。同時に、多数例のcase control studyを実施して、Jr(a-)型に想定される痛風・高尿酸血症のリスクについて解析を進めている。また、ABCG2は重要な薬物トランスポーターであることから、Jr(a-)型の薬物動態は健常者と大きく異なっていることが想定される。実際に、ABCG2遺伝子変異は尿酸値の上昇のみならず、血液透析患者の全死因を上昇させるリスクであることも見出しており(Nakashima A, et al. Hum Cell 2020)、この想定を示唆する所見の一つと考えられる。そのため、Jr(a-)型の変異による影響を上記の変異体導入細胞株などを用いて解析して、Pharmacogeneticsの観点からの効果的な薬物使用のための知見を得る。これらにより、日本人に多いと予想されるJr(a-)型を持つ集団に対するゲノム個別化予防・医療に役立つ新しい研究を展開する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2,500例のJr(a-)型の対象者の約80%がABCG2遺伝子の既知の機能消失型変異であるQ126Xのホモ変異であることが見出されている。残りの約20%の対象者について、次世代シーケンサーを使用したABCG2遺伝子の全エクソン配列の解析を行い、アミノ酸の置換を伴う複数の変異を見出した。これらの変異が引き起こす現象についての解析が現在進行中である。Jr(a-)型の原因となるABCG2遺伝子の変異はその輸送機能の消失だけでなく、細胞膜における発現も消失していることが想定されるため、検出されたABCG2の変異体を培養細胞に強制発現させて、その細胞内の局在(細胞膜への発現の有無)について評価しているところである。 また、ABCG2は重要な薬物トランスポーターであることから、Jr(a-)型の薬物動態は健常者と大きく異なっていることが想定される。実際に、ABCG2遺伝子変異は尿酸値の上昇のみならず、血液透析患者の全死因を上昇させるリスクであることも見出しており(Nakashima A, et al. Hum Cell 2020)、この想定を示唆する所見の一つと考えられる。そのため、上記の変異体導入細胞株などを用いた解析は、Pharmacogeneticsの観点からの効果的な薬物使用のための知見を得る手段として有用であると考えられる。 なお、準備的な解析においては、JR血液型には痛風以上にQ126X変異を含む機能消失型変異の集積を確認している。さらに、既知のQ126X変異を含む症例と含まない症例を比較したところ、一方における有意な痛風リスクの上昇傾向を認めている。また、現時点で偽陰性となっている遺伝子タイプなども明らかになりそうな所見が得られており、血液型の判定で臨床上も有用な成果が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
現在までに見いだされたABCG2遺伝子における変異について、その変異体の局在解析及び輸送機能解析を続行する。さらに必要に応じて、マウスモノクローナル抗ヒトJra(ABCG2)抗体を用いた培養細胞の細胞膜での発現解析についても、フローサイトメーターを用いて実施することにより、血清学的手法である血球凝集法による結果と比較検討する。 加えて、多数例でのcase control studyを実施して、Jr(a-)型に想定される痛風・高尿酸血症のリスクについて解析を進める。また、これらの変異体導入細胞株などを用いて解析して、Pharmacogeneticsの観点からの効果的な薬物使用のための知見を得る。 本研究課題においては、JR血液型と痛風・高尿酸血症の専門家が共同で解析に当たるとともに、分子機能解析や局在解析に精通している研究者が共同でトランスレーショナルリサーチに取り組んでいる。これにより、JR血液型とcommon diseaseである痛風という、一見関連のなさそうな2つの表現型を対象とした大規模分子疫学解析を実施して、その共通点を明らかにするとともに、予防医学的な観点から、日本人に多いと予想されるJr(a-)型を持つ集団に対するゲノム個別化予防・医療に役立つ新しい研究成果が期待できる。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの感染拡大に伴う混乱により、研究の一部が予定通りに進まなかったために次年度使用額が生じた。緊急事態宣言の解除に伴いこれらの研究を進められる目途が立ったため、2020年度中には次年度使用額を含めてすべての残予算が執行される見込みである。
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