銀の殺菌活性は古くから知られており、その安全性は比較的高く、耐性菌を出現させにくいとされている。近年の研究では抗ウイルス性の知見も報告されており、例えば、微粒子状の銀ナノ粒子はウイルスの宿主への吸着を阻害してウイルスの増殖を抑制し、その結果抗ウイルス性を発揮するとした報告などがある。銀ナノ粒子の作製方法に関する報告は幾つもあり、我々もまた、出発材料を混合して高圧蒸気滅菌処理するだけの簡便な作製方法を報告している。本方法の大きな特徴は、均一な粒径の銀ナノ粒子を効率よく作り出せる点であり、抗ウイルス性を期待できる粒径の銀ナノ粒子を簡単に効率良く作り出すことができる。これまでの検討では、本方法で作り出された銀ナノ粒子が微生物殺菌効果等を有することを確認している。本研究の主たる目的は、銀ナノ粒子の微生物殺菌効果等をさらに高めるための方策を検討し、加えて医療用素材等の材料に付着した微生物等を効果的に除染・洗浄できる系を構築することである。これらを達成させるための共通項として、本研究ではラジカル種の発生と活用を念頭において実験を進めている。 本年度は、銀ナノ粒子等を含有させた「材料」の洗浄液として使用予定の独自調製した貝殻由来酸化カルシウムについて、効率的にラジカルを発生させる手法を検討した。また、ラジカルの発生で懸念される安全性について、培養細胞等を使用した実験系を中心とした基礎検討を行った。これらの実験を通じて、ラジカルを使用することで微生物殺菌効果等の増強が達成出来るものの、同時に細胞傷害が発生しうることから、本系の使用に際しては皮膚への直接的な接触を避ける、あるいはラジカルの発生量を厳密にコントロールするなどの対応策が必要になると考えられ、これらの検討が今後の課題となった。
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