研究課題/領域番号 |
19K22794
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
中川 嘉 筑波大学, 国際統合睡眠医科学研究機構, 准教授 (80361351)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | SREBP-1a / 脂肪酸合成 / 小腸構造 / 小腸の発生・分化 |
研究実績の概要 |
CRISPR/Cas9システムを用いSREBP-1a floxマウスを作製した。このマウスを中心に小腸特異的Cre Tgマウスおよびマクロファージ特異的Cre Tgマウスとそれぞれ交配し、小腸特異的SREBP-1a KOマウス、マクロファージ特異的SREBP-1a KOマウスを作製した。 さらに、SREBP-1a floxマウスを作製する中、全身でSREBP-1aを欠損するSREBP-1a KOマウスも作製できた。野生型(WT)マウスとSREBP-1a KOマウスに無脂肪食を負荷したところ、SREBP-1a KOマウスではWTマウスに比べて空腸の絨毛が短いことが確認した。さらに、KOマウスから腸管オルガノイドを作製すると、腸管細胞の増殖・分化が顕著に遅延した。つまり、発生・分化にSREBP-1aが必要であることが明らかとなった。 無脂肪食負荷時、WTとSREBP-1a KOマウスとの間で空腸内のトリグリセリド量とコレステロール量に変化は認められなかった。しかしながら、脂肪酸の質を制御する脂肪酸不飽和化酵素(Scd-1)の遺伝子発現がKOマウスの空腸で大きく低下していた。Scd-1はSREBP-1aとSREBP-1cにより制御されるが、SREBP-1cの遺伝子発現には差が認められなかった。空腸におけるScd-1の発現制御はSREBP-1aの機能に強く依存していることを明らかにした。SREBP-1a KOマウスの空腸の陰窩細胞では、オレイン酸・パルミトレイン酸の割合が減少していた。SREBP-1aは脂肪酸全般の合成を制御すると考えられていたが、小腸ではSREBP-1aが脂肪酸の量ではなく「質」を制御することを初めて明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
遺伝子改変マウスの作製が順調であり、目的マウスの作製がすでに終了している。SREBP-1aはスプライシングバリアントであるSREBP-1cよりも転写因子としての転写活性化能が高いが、生理的機能についてほとんど明らかになっていなかった。しかしながら、我々が作製したSREBP-1a KOマウスの解析から脂肪酸の質を制御することで小腸構造の維持に寄与することを初めて明らかにした。 小腸の細胞特異的SREBP-1a KOマウスの解析の準備が完了しており、解析を進めることが可能となっている。
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今後の研究の推進方策 |
マウスレベルでの表現型解析について本年度に大きく進展した。次に小腸の機能変化に焦点を当てた解析を行うが、小腸細胞はライン化した培養細胞が存在しないため、全ての研究が大腸由来の細胞が使われている。そのため、初代培養での解析をする必要があり、本課題では小腸の上皮細胞、幹細胞の初代培養系を確立する。さらに、単離した小腸細胞とマクロファージを共培養し、栄養成分に対する小腸上皮細胞への影響がどのような反応によってマクロファージでの免疫応答を活性化するか、また、逆に免疫応答が栄養代謝へ与える影響を評価する。 小腸構造への影響の根源を調べるため、小腸初代培養(オルガノイド)をSREBP-1a I-KOマウスから細胞を単離する。幹細胞から分化、増殖用培地で培養し、細胞の変化をモニターする。また、幹細胞特異的にGFPが発現するLgr5 GFPマウスと交配し、幹細胞の動態をイメージング解析できる系を構築し、SREBP-1による機能を明らかにする。
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