研究課題/領域番号 |
19K22800
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
狩野 豊 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 教授 (90293133)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | 細胞内温度 / カルシウムイオン / 筋小胞体 / 骨格筋 |
研究実績の概要 |
細胞内の温度分布や変化を詳細に解析することは,細胞が示すさまざまな機能を解明することに結びつく.本研究は生きた小動物(マウス,ラット)の骨格筋を摘出することなく,生体内(in vivo)環境下で温度分布を画像化する技術の確立を目的としている. これまでに,我々のグループでは生きた動物個体の筋細胞内において変化するターゲット分子の挙動を画像化する方法(in vivoバイオイメージングモデル) 構築し,骨格筋研究を展開してきた.このin vivoイメージング技術を基盤として,骨格筋細胞の温度変化を画像化するために,その1.複数の市販化された温 度感受性蛍光プローブを利用する方法,ならびに,その2.フォトサーマル(光熱交換)原理を利用する方法によるin vivo細胞内温度評価モデルを構築することが研究目標である.
令和元年から2年度度では,ラット骨格筋細胞に市販化されている温度感受性蛍光プローブ (Cellular Thermoprobe for Fluorescence Ratio) を導入し,骨格筋の収縮・ 弛緩による温度動態を調べた.その結果,筋細胞の熱動態をin vivoイメージングによって評価する実験モデルの構築に成功した.この実験モデルによって,細胞質内のカルシウムイオン調節機構を担う細胞小器官である筋小胞体が,収縮弛緩サイクルの筋温変化に重要な役割を持つことが明らかにされた.このとき,ミトコンドリアのATP合成を阻害すると,温度変化が抑制されることも明らかになった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和2年度は,フォトサーマル(光熱交換)顕微鏡による温度評価を検討する予定であった.この観察方法は,レーザー光励起による生体内の熱の僅かな上昇 (1/1000度以下)が起こす屈折率変化と検出光との相互作用から超解像の画像構築を可能とする技術である.近年,我々は,マウス骨格筋細胞のミトコンドリア を無標識の摘出筋組織を用いて観察することに成功した(Tomimatsu, Kano, Kobayashi et al. 2017, Biomedical Optics Express).本研究では,フォトサーマルイメージングとして,励起光による熱発生(1/1000度以下)と検出光との差分を基準化し,細胞による熱発生を基準線からのズレとして検出することを試みる予定であった.しかしながら,実験装置のセットアップが年度末までに完了できなかった(新型コロナウイルス感染対策の影響)ことから,この計画を令和3年度に延期した. 前年度に確立された実験モデル(Cellular Thermoprobe for Fluorescence Ratio)を利用して,ミトコンドリアによるATP産生,細胞内カルシウムイオン動態ならびに温度変化との関係性を調べた.その結果,ミトコンドリアの脱共役剤(FCCP)によるATP合成の阻害環境下では,カルシウムイオンの蓄積を生じるものの,有意な筋温変化は認められなかった.この結果は,筋小胞体Ca2+ATPase (SERCA)によるカルシウムイオン取り込みが抑制され,ATP加水分解による熱産生が減弱したことに由来すると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
上述したとおり,これまでの研究の成果として,市販化された蛍光温度プローブによって,in vivo環境下の単一筋細胞での温度変化ならびに,温度を制御するために筋小胞体によるカルシウムイオン取り込みがキーとなっていることを解明した. 今後は,異なる原理であるフォトサーマル(光熱交換)顕微鏡による温度評価を検討する.このモデルでは,フォトサーマルイメージングとして,励起光による熱発生(1/1000度以下)と検出光との差分を基準化し,細胞による熱発生を基準線からのズレとして検出することを試みる.前処理が不要であるメリットは非常に大きく,生きた細胞から温度情報を直接的に視覚化する技術の開発を試みる.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスによる実験装置のセットアップが大幅に遅延したため,実験計画を1年間延長した.そのため,当初計画していた光学系のセットアップとして,レーザー光源などの購入に活用する計画を立てている.
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