研究課題/領域番号 |
19K22807
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
七五三木 聡 大阪大学, 全学教育推進機構, 教授 (20271033)
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研究分担者 |
荻野 正樹 関西大学, 総合情報学部, 教授 (00397639)
青山 千紗 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (80823939)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | 運動技能 / 身体知 / AI |
研究実績の概要 |
卓球スキルを研究モデルとして選び、“主観的な認識・評価装置である人(指導者)”に一切依存せず、“アスリート毎にスキル計測と計測結果の分析、分析結果に基づく弱点やくせの検出、それらを修正するための練習・訓練メニューの提供と効果の検証”までの全プロセスをAIが行う“テーラーメイド型指導者フリー・運動スキル計測・改善システム”を開発し、その効果を検証することが本研究の目的である。 昨年度は、本システムを開発する上で必要不可欠な3つのローターと2つのルーバーによって任意の回転・軌道方向のボールを自在に射出できる“ボール射出ロボット”と、ボールトラッキングシステムを組み合わせた“運動スキル計測システム”の基本部分を開発した。今年度は、ロボットによるボール射出後の任意のタイミングで卓球台上あるいは対戦者側の壁面に標的(長方形・円形)あるは対戦者を表示し、それを狙ってあるいは避けて返球する課題を構築した。 昨年度は、トラッキングしたボール軌道の時系列データからボールの移動方向や球種(上回転・下回転・横回転)などを自動判別する方法を決定木の勾配ブースティングのフレームワークであるLightGBMで検討した。自動的判別器(学習器)を生成して球種の判別の精度を検証したところ、3つの球種(上回転・下回転・横回転)と3つの射出方向の組み合わせによって得られる合計9種類のボール判定正解率は91%であった。しかし、今年度、その詳細を分析したところ、予測精度は球種によって異なっており、上手く分類できない球種もあった。特に、横回転のフォアや上回転のミドルでは精度が落ちることがわかった。一方で、予測精度に貢献する特徴量が明らかになり、アスリートの“返球の質”や“苦手”を定量評価するために必要となる“新たな学習器”の予測精度向上に寄与する特徴量の生成や予測の妨げになる特徴量の排除のためのヒントが得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
テーラーメイド型指導者フリー・運動スキル計測・改善システムにおけるスキル計測部分についてのハードおよびソフト面での構築作業は順調に進んでいる。ハード面では、3つのローターと2つのルーバーによって任意の回転・軌道方向のボールを自在に射出できる“ボール射出ロボット”、ロボットにより射出されたボールやアスリートにより返球されたボールのリアルタイムトラッキングシステムの開発を昨年度に終了した。ソフト面では、返球すべき目標/避けるべき目標(卓球台上の標的・対戦相手側の壁面の対戦相手)の映像を任意のタイミングで投影する仕組みを今年度確立し、卓球スキル課題の原型は完成している。コーチの役割をするAI部分においては、LightGBMという軽いモデルでも高い精度で軌道を分類することが可能であることを見出しており、予測モデルの問題点の抽出だけでなく、その解決の検討も合わせて進めており、その目途も立ちつつある。そのため研究の進捗としては、おおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
現時点において、本研究が開発目標とする“テーラーメイド型指導者フリー・運動スキル計測・改善システム”の基本部分はほぼ完成している。そこで、本システムを実際にアスリートに適用して、ロボットから射出されるボールの様々なコース・球種に対するアスリートの返球の軌道情報を大量に取得し、LightGBMを主たる学習器として、「どのような球種(軌道と回転)が苦手・得意なのか」、「様々な球種に対してどのような返球特性と持つのか」をアスリートごとに判別するための学習器(苦手ボール判別器)の生成し、苦手部分の集中練習によりスキル改善効果がどの程度生じるのかを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、卓球競技者の大規模計測を実施する予定であったが、新型コロナによる影響により、その実施が困難になった。そこで、計測実験は次年度に実施することとし、今年度は、既存のデータを用いて、主に各種機械学習と予測精度・計算効率についての検討を行った。そのため、大きな予算の執行を必要としなかった。また、コーチの役割をするAI部分の自動判別学習器を生成するにあたり、研究計画立案当初はハイスペックな機械学習用PCを複数台用いてディープ学習をベースとした学習器の生成を想定していた。しかし、メモリ効率のよい決定木をその代替案として用いることで、PCの購入が最小限に抑えられた。
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