研究課題/領域番号 |
19K22808
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
齊藤 達哉 大阪大学, 薬学研究科, 教授 (60456936)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | 栄養 / 感染症 |
研究実績の概要 |
適量の栄養素を摂取することは、感染症を予防する上で極めて重要である。しかしながら、先進国においては老化に伴う食欲減退や過度の食事制限により、途上国においては食糧難により、栄養不足に陥り感染症を患う人々が後を絶たない。本研究では、防御応答における栄養素の健康増進効果に着目し、栄養不足により易感染性となる理由を解き明かすことを目的とする。とりわけ、感染防御に深く関わることが知られている「自然免疫機構を介した炎症性サイトカインの産生に対する栄養素の効能」という新たな視座に立ち、解析を進めていく。栄養素レベルを感知するセンサーやその下流でサイトカインの転写制御に働く因子を同定し、栄養不足により炎症の誘導が減弱する機序を理解する。さらに、センサーや転写制御因子などを欠損する遺伝子改変マウスを用いて、栄養不足により防御応答不全に陥る機序を個体レベルで解明する。これまでに行った研究により、自然免疫機構であるToll-like receptor (TLR)およびインフラマソームの活性化に応じたIL-1betaの放出に、ある特定のアミノ酸が関わっていることを見出した。一方で、当該アミノ酸はTNFやIL-6の産生には関わっていないことから、当該アミノ酸の作用対象は転写因子NF-kappaBとは異なることも明らかになった。このアミノ酸の働きは、プライマリ―マウス腹腔マクロファージやプライマリーマウス骨髄由来マクロファージで確認されたが、マウスマクロファージ細胞株であるJ774細胞やRAW細胞では確認されなかった。プライマリーの細胞と比べて、がん化した細胞や不死化した細胞ではアミノ酸の感受性や要求性が異なることが知られており、今回見出した現象も同様に細胞のがん化や不死化と関連するものと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
プライマリーのマクロファージにおいて、炎症性サイトカインであるIL-1betaの放出を制御するアミノ酸を見出した。TNFやIL-6などの他のサイトカインに影響がないことから、この現象には特異性があり、細胞生存率の低下などに依存しているわけではないことも確認した。さらに、この反応がマクロファージ細胞株では観察されないことも見出した。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 栄養素を感知し、パターン認識受容体であるTLRなどを介した炎症性サイトカインの発現誘導を促進する機構を同定する。これまでに、ある特定のアミノ酸の欠如がプライマリーマウスマクロファージにおけるTLRを介したIL-1betaの発現を大きく減弱させることを見出している。そこで、C57BL/6マウスから単離した初代培養マクロファージにおいて、当該アミノ酸の欠乏がTLR依存的なタンパク質発現に与える影響を、プロテオミクスにより解析する。サイトカインだけでなく、他にも生理活性を有するタンパク質の発現パターンが、当該アミノ酸の欠乏により変動すると予想される。 (2) 上記の解析で発現パターンが変化したタンパク質(IL-1betaを含む)について、転写レベルで変化している場合にはプロモーターに作用する転写因子、タンパク質レベルで変化している場合にはmRNAに結合する因子などを同定する。 (3) 上記の解析で着目した転写因子もしくはmRNA結合因子について、どのようなメカニズムでアミノ酸に反応するのかを明らかにする。具体的には、当該因子に結合する因子を免疫沈降法により精製し、質量分析により同定する。アミノ酸に応じて活性が変化し、転写や翻訳を制御する分子としてmTORがよく解析されているので、転写因子やmRNA結合因子に対する当該アミノ酸の効果にmTORが関わっているか否かも明らかにする。
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