研究課題
運動をうまく行うためには、筋力や持久力などの身体能力と、体を思うように動かす(協調)能力がバランスよく備わっていることが求められる。前者が生まれ持った素質である遺伝要因の影響を大きく受ける一方で、一般に「運動神経の良さ」とよばれる後者は運動経験など環境により培われる能力とされ、遺伝の影響は顧みられてこなかった。ところが、先行研究と予備実験の結果を踏まえると、これまでの運動能力の概念とは異なり、「運動神経の良さ」に環境要因のみならず、遺伝要因も関与している可能性が出てきた。今年度は、昨年度までで同定した小脳および大脳における協調能力の責任遺伝子の3つの候補遺伝子の詳細な解析を行った。樹立した協調能力に優れるあるいは劣るマウス系統間で、候補遺伝子の発現に差があるかリアルタイムPCR解析等により評価し、候補遺伝子を小脳あるいは大脳で差が認められた2つに絞り込んだ。そして、これら2つの責任遺伝子がコードするタンパク質を免疫組織化学染色により評価すると、リアルタイムPCR解析等の結果と一致して、小脳あるいは大脳において、染色濃度の増加が確認でき、その局在も明らかした。さらにshRNA発現AAVを用いて、小脳と大脳での2つの候補遺伝子をノックダウンしたところ、協調能力の評価であるロータロッドとバランスビームの成績が著しく低下することが確認できた。以上の結果から、協調能力の責任遺伝子を発見するとともに、「運動神経の良さ」に遺伝の影響が存在することを実証した。また、協調能力が向上するエンリッチ環境で飼育したマウスにおいて、小脳での候補遺伝子の発現量が増加することも明らかにした。
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