研究課題/領域番号 |
19K22812
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
神野 尚三 九州大学, 医学研究院, 教授 (10325524)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | 腸内細菌叢 / Lactobacillus casei / 成体海馬神経新生 / 短鎖脂肪酸 / 加齢 / ミクログリア |
研究実績の概要 |
マウスにLactobacillus caseiを4週間投与し、成体海馬神経新生の変化を検討した。オプティカルダイセクター解析では、若齢マウスにおいては神経新生の明らかな促進効果は認められなかったが、加齢マウスにおいて、Lactobacillus caseiの投与によって神経前駆細胞と新生ニューロンの密度が増加する結果が得られた。Neurolucidaによる三次元再構築では、加齢マウスに対するLactobacillus caseiの投与によって、新生ニューロンの樹状突起の長さが伸展し、分岐の数が増加することが示された。これらの結果は腸内細菌叢の改変によって、加齢マウスで神経新生が促進される可能性を示唆している。また、行動解析によって、Lactobacillus caseiを投与した加齢マウスでは、新奇物体認知試験における記憶力が改善されていた。糞便中の特定の短鎖脂肪酸の濃度が上昇していることが明らかになったため、実験的に短鎖脂肪酸の投与を行ったところ、神経新生が促進することを確認した。 さらに、ミクログリアが腸脳相関のリンクの役割を果たしているとの仮説を検証する実験に取り組んだ。実験では、コロニー刺激因子1受容体(CSF1R)阻害剤であるPLX3397を加齢マウスに4週間投与し、ミクログリアを枯渇させた。Iba1に対する免疫染色を行った結果、海馬のミクログリアがほとんど消失していることが確認された。引き続いて、Lactobacillus caseiを4週間投与したところ、成体海馬神経新生の促進が認められなかった。また、PLX3397を投与加齢したマウスに、短鎖脂肪酸を投与したところ、成体海馬神経新生の促進作用が消失していた。これらの結果は、腸内細菌叢の改変による成体海馬神経新生の促進作用にはミクログリアを介したメカニズムが存在することを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度の実験では、コロニー刺激因子1受容体阻害剤であるPLX3397を用いたミクログリアを枯渇させる実験によって、腸内細菌叢と探査脂肪酸が成体海馬神経新生に作用するメカニズムにミクログリアが関わっていることを直接的に明らかにすることに成功している。これによって、運動と成体海馬神経新生をつなぐリンクにミクログリアを加えて新たな研究が進行中である。
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今後の研究の推進方策 |
実験1:回し車で自発運動をさせたマウスとそうでないマウスに抗生物質のカクテルを飲水に加えて4週間投与し、腸内細菌叢を撹乱する。対照群のマウスは通常の飲水とする。 実験2:上記の実験群について、分子マーカーに基づき神経幹細胞や神経前駆細胞、新生ニューロン等の分布密度を計測する。さらに、新生ニューロンの3次元再構築とスパイン形態の解析を行う。これらから、神経新生の促進と抑制、新生ニューロンの成熟度を評価する。新規物体認識試験による参照記憶の評価に加えて、新たに導入したオペラント条件付け装置による学習機能の評価、高架式十字迷路試験とオープンフィールド試験による不安関連行動を評価する。 実験3:FACSを用いてミクログリアを分取し、自発運動、Lactobacillus caseiと抗生物質による腸内細菌叢の改変によって発現レベルが変動する遺伝子を捉える。 実験4:ミクログリアを介した神経新生の促進に関わり、自発運動、Lactobacillus caseiと抗生物質による腸内細菌叢の改変によって変動する中間代謝物 (SCFA) の候補 (物質X) を実験1-3の結果から絞り込む。さらに、物質Xをマウスに与えた場合、自発運動を行った場合と同様の神経新生の促進と認知・情動機能の改善、遺伝子発現変動、DNA修飾などが認められるかどうかを確認する。これらから、自発運動と成体海馬神経新生のリンクとしての腸内細菌叢とミクログリアの役割を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は新たに導入したオペラント条件づけ装置のセットアップに時間を要した。このため、加齢マウスを用いた予備実験を中心に実験に取り組んだ。その結果、見込みよりも消耗品費がかからず、次年度使用額が生じた。
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