運動機能が低下する高齢者において、ロコモティブシンドロームは認知機能の低下や要介護に至るリスクを高めると考えられている。本研究で我々は、運動量が多い若齢マウスと、運動量が減少している加齢マウスを比較し、腸内細菌叢の脳機能への作用機序を検討した。プロバイオティクス製剤 (Lactobacillus casei) の投与は、加齢マウスの成体海馬神経新生の産生を増加させ、新生ニューロンの成熟を促進し、新規物体認知試験における記憶機能を改善した。一方で、プロバイオティクス製剤は若齢マウスの成体海馬神経新生や認知機能には影響を与えなかった。また、プロバイオティクス製剤によって、加齢マウスの糞便中の酢酸やn-酪酸などの短鎖脂肪酸が増加していたが、若齢マウスの糞便中の短鎖脂肪酸に変化は認められなかった。これらの結果を踏まえ、加齢マウスに短鎖脂肪酸を投与したところ、成体海馬神経新生が増加することが明らかになった。さらに、PLX3397 (colony stimulating factor inhibitor) を投与し、脳の免疫細胞であるミクログリアを除去すると、腸内細菌叢の改変による成体海馬神経新生の促進や、認知機能の改善作用が阻害された。このことから、プロバイオティクス製剤の効果はミクログリアを介している可能性が示唆された。本研究の結果は、加齢による筋力の低下や関節の痛みのために適切な運動をすることが困難な高齢者にとって、プロバイオティクス製剤による腸内細菌叢の改善は、認知機能低下を予防する効果があることを示すものであるが、今後のさらなる検討が求められる。
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