研究課題/領域番号 |
19K22817
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研究機関 | 高崎健康福祉大学 |
研究代表者 |
福地 守 高崎健康福祉大学, 薬学部, 教授 (40432108)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2023-03-31
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キーワード | BDNF / 肥満モデルマウス / 脂肪組織 / マクロファージ |
研究実績の概要 |
高脂肪食給餌による肥満モデルマウスを用いて、皮下脂肪である鼠径部白色脂肪組織(IWAT)および内臓脂肪である精巣上体白色脂肪組織(EWAT)に着目してBDNF等の発現に関する解析を実施した。特に令和3年度は、高脂肪給餌期間を2週間および8週間として解析を行った。 その結果、IWATでは、高脂肪食給餌2週間および8週間ともにBDNF発現増加が認められた他、マクロファージのマーカーであるF4/80、インスリン抵抗性改善などに関わるアディポネクチンの発現増加が認められた。一方、EWATでは、高脂肪食給餌2週間でもBDNF発現増加は認められたが、8週間では著しいBDNF発現増加が認められた。高脂肪食給餌8週間後のEWATでは、このBDNFの顕著な発現増加に相関して、F4/80や炎症マーカーであるTNFαの発現も著増した。IWATではTNFα発現に変化は認められなかったことなども考慮すると、IWATでは過剰なエネルギーの貯蔵といった健常な脂肪組織の肥大化が生じ、EWATでは慢性炎症状態といった病的な変化が生じており、これらにはBDNF発現増加が関わる可能性が考えられた。 また、BDNFは脂肪細胞に発現しているか検討するため、脂肪細胞様に分化させることが可能な3T3-L1細胞を用いて解析を行った。その結果、分化誘導後、初期段階からBDNF発現が顕著に減少することが明らかとなった。一方、BDNF受容体の発現は分化後も認められた。 さらに、マクロファージ除去剤を用いて、高脂肪食給餌2週間後のIWATにおけるBDNF発現変化を検討した結果、マクロファージ除去剤を投与するとIWATでのF4/80発現は30%程度に低下し、この条件下では高脂肪食によるBDNF発現誘導が認められなくなった。したがって、高脂肪食給餌によるIWATでのBDNF発現誘導にはマクロファージが必要であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題では、高脂肪食給餌により発現が増加したBDNFが脂肪組織中のどの細胞に由来するのか?を解明する必要がある。そこで本研究では、これまでの報告や得られた研究結果から、マクロファージに着目し、マクロファージ除去剤を用いた解析を進めた。しかし、入手したマクロファージ除去剤の投与量や投与スケジュールを決定する予備検討が予想以上に遅れてしまった(既報の投与量ではマウスに有害事象が見られ実験を継続できなかったため、新たに条件検討をする必要があった)。そのため、年度内に実施しようとした研究、特に脂肪組織で高発現したBDNFの生理的意義について掘り下げる研究計画を進めることができなかった。その一方、高脂肪食給餌後の脂肪組織におけるBDNF発現誘導には、少なくともマクロファージが必要であることを見出した。以上を総合的に判断し、現在までの進捗状況は「やや遅れている」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
高脂肪食給餌により、脂肪組織でBDNF発現が増加すること、この増加にはマクロファージが少なくとも一部は関与することを見出したため、今後は、この研究結果の再現性を取りながら、マクロファージ除去時のBDNF以外の因子(アディポネクチンやTNFαなど)についても発現変化を検討する。また、脂肪細胞にはBDNFは発現していないがBDNF受容体は発現していることから、高脂肪食により脂肪組織内で発現が増加したBDNFは、脂肪細胞に作用に何らかの機能を発揮することが示唆される。そこで、培養脂肪細胞を用いて、BDNF受容体活性化により脂肪細胞にどのような変化が生じるのか?アディポネクチン発現や脂肪細胞の成熟化、油滴貯蔵状況などを解析する。この解析により、脂肪組織で高発現したBDNFの生理的意義を明らかにする。得られた結果をまとめ、令和4年度中に学術論文として投稿可能な状態にする。
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次年度使用額が生じた理由 |
「現在までの進捗状況」に記載の通り、本研究課題における主要な実験のうち、一部の実験で詳細な条件検討が必要となり、予想以上に研究計画に遅れが生じた。そのため、該当年度に予定していた他の実験の一部を実施することができなくなり、次年度使用額が生じ、また実施期間を延長した。
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