最終年度は、高脂肪食給餌肥満モデルマウスを用いて、皮下脂肪(鼠径部白色脂肪組織IWAT)および内臓脂肪(精巣上体白色脂肪組織EWAT)におけるBDNF発現誘導が、マクロファージマーカー発現と相関することに着目し解析を進めた。その結果、高脂肪食給餌2週間後では、IWATにおけるBDNF発現誘導は、抗炎症・組織修復に関与するM2マクロファージマーカー発現と相関する傾向を見出した。またIWATでは、BDNF発現誘導と相関して、善玉アディポサイトカインであるアディポネクチン発現誘導が認められた。以上のことから、高脂肪食給餌後、早期の段階では、IWATにおいてBDNFは善玉アディポサイトカイン産生やM2マクロファージ増加と相関して発現が活性化しており、BDNFが病的な肥満の病態形成に対して抑制的に働く可能性が示唆された。一方、EWATにおいてはこれらの相関性はほとんど認められず、さらに、高脂肪食給餌8週間後ではBDNF発現が著しく増加しており、M2マクロファージだけではなく、炎症・組織障害に関与するM1マクロファージマーカーとも強く相関して発現誘導が起こることが明らかとなった。したがって、EWATにおいてはBDNFは肥満の病態形成に対して促進的に働く可能性が予想された。 本研究の結果、肥満モデルマウスの白色脂肪組織におけるBDNF発現は、比較的早期より増加することが明らかとなった。したがって、白色脂肪組織におけるBDNF発現誘導は、肥満の病態形成の早期より生じることが示唆された。また、高脂肪食給餌早期段階のIWATでは、BDNFが脂肪組織に対して善玉的に作用するのに対し、EWATでは肥満の病態形成・進行に伴いBDNFが増加する、すなわち悪玉的に作用する可能性が予想された。したがって、BDNFは皮下脂肪と内臓脂肪で発現しているものの、その役割は異なることが予想された。
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