ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)は、全ての生物種に存在する古典的な補酵素であり、酸化還元反応で中心的役割を果たしている。長寿遺伝子であるサーチュインがNAD+依存性であることや、NAD+が加齢とともに体内で減少することから、NAD+前駆体であるニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)を投与することにより、NAD+濃度を体内で上昇させることで寿命を延長させる研究が大きな注目を集めている。 近年、組織幹細胞を3次元で培養することにより、in vitroで各臓器を模倣した組織構造体を培養するオルガノイド培養法が開発された。これまでに研究代表者らは、老齢マウスの腸管上皮からオルガノイドを樹立し、老化モデルを確立することに成功した。 若齢マウス由来の腸管上皮由来のオルガノイドは、buddingと呼ばれる腸管陰窩に相当する幹細胞が存在する突起状のコンパートメントが認められるのに対し、老化したマウス由来のオルガノイドにおいては、buddingが認められず、増殖能や組織構築能力が低下していた。網羅的な遺伝子発現解析を行ったところ、幹細胞マーカーであるLgr5やWntシグナル経路の遺伝子発現が老化マウス由来腸管上皮オルガノイドで有意に低下しており、これらの一連の変化にはエピゲノム変化が重要な役割を果たしていることが示された。 さらに、NMNの投与により、老齢マウス由来腸管上皮オルガノイドが若齢由来のような形態に変化し、幹細胞関連遺伝子の発現も回復した。老化制御因子であるNMNが老化した腸管上皮においてNAD+活性を上昇させ、抗加齢効果を示していると考えられた。一方で、Sirt1阻害剤であるニコチンアミド(NAM)を腸管上皮オルガノイドに投与すると腸管陰窩構造が消失し嚢胞状構造となり、細胞増殖能も有意に亢進しており、Sirt1阻害が腫瘍化に重要な役割を果たしていることが示唆された。
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